恋愛を数式で捉えたい


交際中のカップルがうまくいく条件を、人の感情をモデル化することで考察する。

恋愛感情のモデル

恋愛とは、多くの場合、二人の人間の間に生じるものである。
ここで、この二人の恋愛感情、いわば「好き度」をそれぞれ $x, y$ と定義する。
好き度は値が正ならば好き、負ならば嫌い、また絶対値が大きいほどその感情が強いものとする。
(「好きの反対は無関心」という名言はあるが、ここでは無視する。)

好き度は時間に応じて変動するはずなので、時刻 $t$ の関数である。

さらに、二人の好き度は次のような関係を持って変動すると仮定する。($\cdot =\frac{d}{dt}$) 1

\begin{cases}
\dot{x} = k_1y \\
\dot{y} = k_2x
\end{cases}

これは、一方の好き度の変化が、他方の好き度によって引き起こされることを意味している。
例えば、相手が自分を好きだから自分も相手を好きになる、といった現象である。

多くの文献によれば、実際には好き度は相手の行動により変化するようだ。
しかしながら、人の行動は当人の好き度に相関すると考えられるので、こうした単純な仮定も有効ではあろう。

比例定数 $k_1,k_2\in \mathbb{R}$ は好き度の変動を決める、個人に応じたパラメータである。
以下に $k_i$ の作用を簡単にまとめる:

  1. $k_i > 0$: 素直タイプ
    • 相手が自分のことを好きであれば、自分も相手のことが好きになる
  2. $k_i < 0$: 天の邪鬼タイプ
    • 相手が自分のことを嫌いであれば、自分は相手のことが好きになる
  3. $k_i = 0$: 天下無双タイプ
    • 相手がどう思っていようが、自分の相手に対する思いは変わらない

3のケースは非常に稀であると考えられるので、以降では $k_i\neq 0$ とする。

恋愛感情のダイナミクス

先の関係式から、好き度 $x,y$ の挙動を簡単な微分方程式として解くことができる。2

\begin{align}
&\ddot{x} = k_1\dot{y} \\
\Rightarrow & \ddot{x} = k_1k_2x\\
\Rightarrow & x = \begin{cases}
Ce^{\sqrt{k_1k_2}t} & \text{if $k_1k_2 > 0$}\\
C(\cos\sqrt{-k_1k_2}t + i\sin\sqrt{-k_1k_2}t) & \text{if $k_1k_2 < 0$}
\end{cases}
\end{align}

また、$y=\frac{1}{k_1}\dot{x}$ から、$y$ については下記が得られる。なお、$C$ は任意定数。

\begin{align}
y = \begin{cases}
\frac{\sqrt{k_1k_2}}{k_1}Ce^{\sqrt{k_1k_2}t} & \text{if $k_1k_2 > 0$}\\
\frac{\sqrt{-k_1k_2}}{k_1}C(\sin\sqrt{-k_1k_2}t + i\cos\sqrt{-k_1k_2}t) & \text{if $k_1k_2 < 0$}
\end{cases}
\end{align}

これにより、時刻 $t$ における各人の好き度を計算できるようになった。

恋愛のパターン

前節の結果より、$k_1, k_2$ の値に応じて、次の恋愛パターンが得られる。

1. $k_1>0 \land k_2>0$ のとき (ふたりとも素直)
このとき、ある時点において互いが互いのことを好きになれば($x>0\land y>0$)、互いの好きは自ずと高まっていき、正に発散する。
好きが好きを呼ぶ、いわばLove spiralである。
いつまでも熱々のカップルは、この条件を満たしているのだろう。

2. $k_1k_2<0$ のとき (一方が素直、他方が天の邪鬼)
このとき、二人の好き度は振動する。俗に言う、付かず離れずの関係である。
$x,y$の位相が90度ずれていることに注意しよう。
傍から見れば面倒くさいが、まずまず良好な恋愛関係といってよいのではなかろうか。

3. $k_1<0 \land k_2<0$ (ふたりとも天の邪鬼)
残念なお知らせ…
このとき、二人の好き度は必ずどちらかが負に発散する。
無限に嫌いな相手との交際が続くわけはない。すなわち破局である。

天の邪鬼のペアが恋愛でうまくいくには

先の議論により、カップル二人とも $k<0$ である場合、不可避的に破局が待ち受けていることがわかった。
それでは二人が付き合うことは無謀なのだろうか?

安心されたい。解決策は存在する。

見せかけの好き度

「見せかけの好き度」という新たな概念を導入する。
これは、自身のもつ真の好き度とは関係なく、相手に自由に提示できる好き度である。
これを $\tilde{x}, \tilde{y}$ と表記する。

この時、恋愛ダイナミクスは下式となる。

\begin{cases}
\dot{x} = k_1\tilde{y} \\
\dot{y} = k_2\tilde{x}
\end{cases}

さて、今 $\tilde{x}$ は当人の意思により自由に制御可能であると仮定していた。
ここでは、次の制御則を考えよう。

\tilde{x} = -x

すなわち、 本当は好きな時でも、見せかけでは嫌いなように振る舞う のである。(ツンデレ方策)

この結果、ダイナミクスは $\dot{y} = -k_2x$ となるので、実質的に $k_2$ の符号が反転したと見なすことができる。
このため、相手が素の振る舞いを続けていれば($\tilde{y} = y$ 、)好き度の変動は前節で議論した2の振動パターンへと変化する。

実らぬ恋が、結実するのだ。

まとめ

  • 恋愛感情の動きを数式でモデル化した
  • モデルから、恋愛には3種類のパターンがあることを見出した
    • 2/3のパターンは、そのままでもまずまずうまくいく
    • 1/3のパターンは、うまくいくためには片方の努力が必要である

本議論の限界

最初に導入したモデルに関して、次に挙げることを考慮できれば、より忠実化が可能であると考えられる。

  • k値も時間変動する人間が存在しうる
    • 例えば女性は生物的に周期的な変化があるかもしれない
  • パートナーの好き度は外から観測することしかできず、真値は決して知ることができない
    • 当人の観測誤差の大小により、恋愛ダイナミクスはまた変化してくるはず(e.g. 好きがパートナーに伝わらないなど)
  • 好き度の変動には他の要因も存在する
    • 贈り物、発言、当人の心境、etc...
    • これらにより、現実にはありがちな好き度の不連続な変化を表現できる

※追記
Twitterにて $k$ 値に関する興味深い示唆が発見された。[Asada 2019]

・私を好きになる人は嫌い
・好きといわれてキモく感じた
・追いかけられると冷める

実はこれは自己肯定感の低さが原因です。自分が嫌いな人は「こんな私を好きになる人間はキモい理解できない」と避けたくなるのです。そして自分のものにならない悪い男に心奪われる。自分を大切にすることからだよ。
https://twitter.com/ASD_ELEGANT/status/1131520857673588736

これによれば、$k$ 値は決してある個人について不変なものではなく、自己肯定感とともに変動させうる。
自己肯定感を高める方法は現在までに多く提案されているので、これにより恋愛ダイナミクスを改善可能である。


  1. 恋愛偏差値30程度の筆者が様々な創作作品や寡少な経験からの考察に基づくエンピリカルなモデルである 

  2. $t$ が大きいときの挙動が肝要であると考え、簡単のため $e^{-\sqrt{k_1k_2}t}$ の項は省いた