上司か詐欺師か


例えばこんな会話を考えてみます

... ある金曜日 ...
上司> ちょっとやってほしいタスクがあるんだけど.
部下> どんなタスクですか?
上司> (タスクの説明をしたのち) こんな感じなんだけどどれくらいかかりそう?
部下> その内容ですと...来週の金曜くらいまでかかりそうですね
上司> そりゃ困るよ、来週の木曜には上に見せることになってるんだから.じゃ、水曜までにどうにか頼んだよ.
... 翌週の水曜日 ...
上司> 先週頼んだタスクだけど終わった?
部下> 終わってません
上司> なんだって!?水曜までにやっておいてくれと言ったじゃないか!!

ひどく簡略化してありますが, どこで見られるようになひどい話です.
私はこんな話を聞くたびに, どこかで読んだ次の思考実験を思い出します.

ある男が資本家たちの間を歩き回り「確実に値上がりする株の銘柄を知っている」と語って回った.
多くの人々はこの言葉は全く根拠のない妄言であり, この男のことをただの詐欺師だと考えたが
何人かの資本家たちはこの言葉を真に受けて彼に投資金を預けることにした.
時が過ぎ, 約束の期日を迎えたとき, 株は値上がりしており彼は約束通り投資者たちに配当金を配っていった.
しかしこの男, 実は株価が値上がりすることを確信はしていたが, その論拠は全くなかった.
さて, このとき彼は詐欺師であろうか?

どこで読んだか思い出せないので細かいところはあやふやですが, おおむね上記のような話だったと思います.
このような行いが詐欺か否かと聞かれたら直感的には詐欺だと思うわけですが, ネタ元ではそこで終わらずに
この男をどのようなときは詐欺師と扱うべきでどのようなとき扱うべきではないかについての
詳細な議論が続けられていました.
今回私が言いたいことはそういった興味深い議論についてではなく, たんに上の詐欺師と上司が似たものどおしであるということです.
つまり, 上司の男がタスクが自分の期待通りの期日に完了することを信じてたことは,
詐欺師の男が株価が期待通り値上がりすることを信じたことに等しいと言いたいわけです.

では, どうすれば詐欺師にならずにすむのでしょうか?
一番単純な方法は, 論拠のないスケジュールを立てないことです.
最初の例ですと

部下> その内容ですと...来週の金曜くらいまでかかりそうですね

と作業者である部下が言っているわけですから, タスクの締め切りも金曜日かさらに先に設定すべきでしょう.

「そうは言ってもそれは理想論であって, 現実には自分の上にも上司はいて, 期日はそっちから指定されるんだからしかたないんだよ」と反論したい人もいるでしょう.
確かにタスクの期日を自分ですら決定できないことは多々あります.(あるいはほとんどでしょう)
そういう時でも投げやりになって上の決定を下に流すだけのパイプになるのではなく
部下と相談し, 現在抱えているタスクの優先度の整理をし直すとか, 新タスクを期日まで完了可能な形に縮小できないか考えたりとか,
あるいは進捗を妨げている面倒な問題を代わりに引き受けるとか, 部下を納得させる案を考えることはできるのではないかと思います.

部下の見積もりを信用するか, あるいはタスク完了のための協力を惜しまないという態度を見せる.
部下から詐欺師として見られたくないならば, どんな時でもどちらかの態度は見せるべきです.

補講: なぜ作業者の見積もりは管理者の見積もりより優先すべきなのか

上段ではタスクの見積もりについては管理者の考えではなく作業者の考えを尊重すべきと述べました.
これは無条件に真としてよい命題なのでしょうか?
作業者, 特にプログラマは怠惰でものぐさで, 締め切りギリギリにならないと仕事をはじめないくせに
妙なところにこだわって余計な時間を無駄に浪費するようなろくでなし.
連中は, はっきり言ってしまえばまったく信じるに値しない.
だから, タスクの見積もりを含めすべてを自分で管理していかないことにはプロジェクトは一歩も前に進まない,
と考えている管理者の方もいるでしょう.
プログラマは怠惰でギリギリまでタスクに着手しない. 細かいところにばかり気を取られて全体のことを気にしない.
これらの認識は, まあ大体正しいです.(少なくとも間違ってはないです)
それでも彼らに見積もりをさせるべきなのです.
なぜならば, 管理者の期待する(そして作業者は無理だと思っている)見積もりを押し付けたところで,
彼らにそれを守るモチベーションは存在しない以上, 返ってくるのはせいぜい間に合わせの最低の質の仕事と管理者に対する不信感しかないからです.
一方で作業者が立てた見積もりを採用すれば, 自分で立てた計画である以上おそらく彼らはそれを守ろうとするでしょう.
また良い仕事をしようというモチベーションも保つことができるので, 仕上がった仕事の質にも期待がもでるでしょう.
運が良ければ管理者に対する敬意も返ってくるかもしれません.(この場合の敬意とは後で無理を通す時に使う貯金程度の意味しかありませんが…)

プログラマは信用なりません.
しかし, それでも信用しないことにはプロジェクトを前に進ませることはできないのです.