なぜビンゴゲームで同じ数字を書いてはいけないのか


先日、結婚式の二次会に招待していただきました。新郎・新婦ともに大学時代からの友人です。

歓談中にビンゴゲームが開催されました。私はビンゴゲームに完全に勝利にしたにも関わらず、景品をもらうことができませんでした。

あまりに理不尽な経験だったので、泣き寝入りしてたまるものかと思い、Qiita に初投稿してみようと思います。

ビンゴゲームとは

ビンゴはビンゴですよね。「ビンゴ!」って叫ぶやつです。

今回のビンゴゲームは $3 \times 3 = 9$ マスのカードを利用しました。縦・横・ナナメに一直線に 3 マス穴を開ければ「ビンゴ!」になります。

実は、各参加者には白紙のビンゴカードが配られ、各テーブルにはビンゴゲームのルールが書かれた紙が配られていました。下記がその内容です。

  1. 真ん中のマスに "free" と書いてください。(i.e. 真ん中のマスはゲーム開始時に穴を開けて良い)
  2. それ以外のマスには 1 から 50 までの好きな数字を書いてください。

今回は、新郎新婦が 1 ~ 50 までの数字が各々書かれた 50 枚のカードを 1 枚づつ引きます。各参加者は、新郎新婦が引いたカードに書かれた数字と同じ数字が書かれたビンゴカードのマスの穴を開けることができます。新郎新婦が 1 度引いたカードは、元のデッキには戻さないため、同じ数字が書かれたカードが 2 度引かれることはありません。

後日、新郎新婦夫妻に伺って確認したところ、ビンゴゲームの参加者は 70 名、用意された景品の個数は 14 個だったそうです。

私が考えた戦略

一気に景品 8 個 (縦 3 ビンゴ + 横 3 ビンゴ + ナナメ 2 ビンゴ) をかっさらう戦略です。9 が出れば私の完全勝利です。

ビンゴになる確率は一見低そうですが、当たった時には「ビンゴ!ビンゴ!ビンゴ!・・・ビンゴ!ウェーイ!!」となる夢のポジションニングです。

しかも、一気に景品が8個ももらえる・・・とこのときは思っていました・・・。

私が貰えた景品

確か、新郎新婦が 5 枚目か 6 枚目のカードを引いたとき、"9" の数字が書かれたカードだったんです。それで私が意気揚々と景品 8 個をかっさらいに壇上に上がったところ、新郎新婦で夫婦会議が始まりまして・・・

「え、やだ、全部のマスに同じ数字を書くとか信じらんない」

みたいなことを言い出したんです。それで新郎が結局

「帰ってください(真顔)」

と私に告げたんです。

えーそんなー。同じ数字を書いちゃダメとかそんな説明なかったじゃん・・・。

いや、百歩譲って景品 8 個は無理でも景品 1 個くらいはくれよ、と・・・
ディズニーペアチケットかステーキセットまたは讃岐うどんセットが欲しかったですね・・・。

どこで何をどう間違えたのか

壇上に上がった時に背後から冷たい空気みたいなものを感じたんですよね。

「は?あいつ景品 8 個もらってく気だぞ。オレたちの景品なくなっちゃうじゃねーか。」

この何とも言えない卑しい空気が私から景品を取り上げたんです。

私はこの圧を背後から微かにしか感じ取れませんでしたが、新郎新婦はこれを目の前で受け取ったに違いありません。新郎新婦は本当は私に景品を渡したかった。しかし、参加者全員の気持ちを考え、仕方なく私に景品を渡さなかった、そうに違いありません。

私の戦略ミスは自分以外の参加者を敵に回してしまったことにあります。しかし、私が考えた戦略は実は協力プレイが可能だったんです。つまり、あらかじめ仲良し 50 人でチームを組み「各プレイヤーが自身のビンゴカードに(プレイヤー間で異なる)ある同じ数字を全てのマスに書く」という戦略を取ることができたんです。

仲良しチームに入れなかった 70 - 50 = 20 人が、「ビンゴカードに同じ数字を書いても良い」ことに気がつかず、さらに互いに協力できなかった場合、我々のチームは高い確率で景品 14 個を 50 人で山分けすることができたのです。壇上で夫婦会議が始まることもありません。なぜならば、カードを引く度に約束された 8 ビンゴは、我々のチーム 50 人により、壇上の前で熱烈に歓迎されるからです。

・・・そんなことを結婚式の三次会で考えていたのですが、よくよく考えると実はこの戦略もっと改善の余地があるのではないか、と思ったのです。

残りの文章は、このより洗練された戦略について書き記すものです。私はビンゴゲームの専門家ではありません。ビンゴゲームを学術的に極めたい方は、以下の文章を読まずに Google Scholar などで学術誌を探してください。きっと何本か論文があるはずです。

よく知られている基本戦略

まずは「ビンゴカードの 8 個のマスに全て異なる数字を書く」という戦略を中心に解説します。

確率空間の設定

まずは、下準備としてビンゴゲームの確率空間を設定することにしましょう。

1 ~ N の数字が書かれた N 枚のカード全体の集合を $\mathcal{A} = \{1, 2, \cdots, N \}$ とします。今回のビンゴゲームでは、N 枚のカードを 1 枚づつ引き、1 度引いたカードは元に戻さないという手順で実施されました。つまり、同じ数字が書かれたカードが 2 度引かれることはありません。

n 枚のカードが引かれた時点での、カードの出方全体(根元事象全体の空間)を $\Omega_n$ と置きます。また、$\Omega_n$ の事象全体の空間を $\mathcal{F}_n$ と置きます。

\begin{align}
\Omega_n &:= \{ (x_1, x_2, \cdots, x_n) \in \mathcal{A}^n \mid \text{$x_1, x_2, \cdots, x_n$ は $\mathcal{A}$ の互いに異なる元} \} \\
\mathcal{F}_n &:= \{ \text{$\Omega_n$ の部分集合} \}
\end{align}

$\Omega_n$ の位数は $|\Omega_n| = 50 \times (50 - 1) \times \cdots \times (50 - n + 1)$ です。
カードの出方が同様に確からしいとすると、$\Omega_n$ の事象 $F \in \mathcal{F}_n$ に対して、その確率は $P_n (F) = |F|/|\Omega_n|$ と与えれば良いことが分かります。

このように確率空間 $\Omega_n = (\Omega_n, \mathcal{F}_n, P_n)$ を定義すると、確率空間 $\Omega_n$ と $\Omega_{n+1}$ との間に、自然な整合的な包含関係 $\Omega_n \subset \Omega_{n+1}$ があることが分かります。

ビンゴカードの 8 個のマス(真ん中の free のマスを除く)に書いた 8 個の数字を、配置を含めて $y \in \mathcal{A}^8$ とします。これはビンゴゲームにおける『戦略』に相当します。例えば、下記のようにビンゴカードに数字を記入した場合、$y = (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8)$ と表記することにしましょう。

ビンゴカードの 8 個のマスに全て 9 を記入した場合は $y = (9, 9, 9, 9, 9, 9, 9, 9)$ です。

ビンゴカードの数字の配置 $y$ を1つ固定した上で、確率空間 $\Omega_n = (\Omega_n, \mathcal{F}_n, P_n)$ 上に自然数 $\mathbb{N} = \{ 0, 1, 2, \cdots \}$ に値を取る 2 つの確率変数 $T_n, B_n$ を定義します。

\begin{align}
T_n \colon \Omega_n \to \mathbb{N} \\
B_n \colon \Omega_n \to \mathbb{N}
\end{align}

$T_n$ は、n 枚のカードが引かれた時点での、ビンゴカードで穴が空いているマスの個数です。真ん中の free と書かれたマスも、穴が空いているマスに含めます。したがって、$T_n$ はゲーム開始以前で $T_0 = 1$、ゲーム終了(N 枚のカードを全て引いた)後 $T_N = 9$ です。

$B_n$ は、n 枚のカードが引かれた時点での発生済みビンゴの個数です。ゲーム開始以前で $B_0 = 0$、ゲーム終了(N 枚のカードを全て引いた)後 $B_N = 8$ です。

我々の興味は、「n 枚のカードが引かれた時点でのビンゴの個数」$B_n$ の分布にあります。この確率変数 $B_n$ の確率分布が求まれば、「n 枚のカードが引かれた時点で、初めて b 回目のビンゴが発生する確率」を($B_n$ そのものではないですが)$B_n$ を用いて求めることできます。

しかし、確率変数 $B_n$ を直接求めるには若干煩雑な計算が必要になります。そこで、まず $B_n$ と $T_n$ との同時分布を求め、$T_n$ を積分して $B_n$ の周辺分布を求めることにしましょう。

このようなアプローチ(解法)の利点は、ビンゴゲームの戦略によらずに、同じような計算方法で、求めたい確率変数の確率分布を求められることにあります。
ビンゴゲームの戦略は、ビンゴカードの数字の配置 $y$ が請け負っており、確率変数 $T_n, B_n$ の定義の仕方には影響を与えません(もちろん、変化しないのは確率変数の「定義の仕方」だけであり、確率変数 $T_n, B_n$ の定義自体は $y$ に依存しています)。

$B_n$ の分布は

P(B_n = b) = \sum_{t = 1}^9 P(T_n = t) P(B_n = b | T_n = t)

で求めることができます。つまり、$B_n \mid T_n$ の分布と $T_n$ の分布とが求まれば、 $B_n$ の分布が求まります。

特に、戦略(ビンゴカードの 8 個のマスの数字の記入 $y$ の仕方)によっては、$T_n$ の下での $B_n$ の条件付分布 $B_n \mid T_n$ が $n$ に依存しないことがあります。つまり「ビンゴカードに $t$ 個のマスに穴が開けられている時に、何個のビンゴが発生しているか」は引いたカードの枚数と無関係であり、ビンゴカードの穴が開けられているマスの配置にのみ依存しているということです。

例えば、「ビンゴカードの 8 個のマスに全て異なる数字を書く」というよく知られた戦略においては、具体的に条件付分布 $B_n \mid T_n$ を下記のように算出することができます。

B | T の分布

例えば、ビンゴカードに(真ん中の free のマスも含め)3 個のマスに穴が空いている状態 (T = 3) を考えてみましょう。
この状態では、すでにビンゴが発生している場合 (B = 1) と、まだビンゴが発生していない場合 (B = 0) とがあります。

T = 3 の(穴の開き方の)配置は 28 通り、内 B = 0 となるのが 24 通り、B = 1 となるのが 4 通りです。
仮に、T = 3 の下での 28 通りの配置が同じ確率で実現されるのであれば、$P(B = 0 \mid T = 3) = 24/28$, $P(B = 1 \mid T = 3) = 4/28$ ということになります。

(※ 各配置の上辺に記載した数字は各配置に対して便宜的に定義した ID です。上段が未だビンゴが発生していない状態 (B = 0) 、下段が既にビンゴが発生している状態 (B = 1) です。)

「ビンゴカードの 8 個のマスに全て異なる数字を書く」という戦略において、「T = 3 の下での 28 通りの配置が同じ確率で実現される」ことを確認しておきましょう。

例えば、$y = (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8)$ としましょう。n 枚のカードが引かれた時点での穴の開き方の配置に関して、ID = 3 の配置と ID = 40 との配置は同じ確率で実現されていることを確認しましょう。

ID = 3 の配置は、引いた n 枚のカードに $\{1, 2\}$ が含まれ $\{3, 4, 5, 6, 7, 8\}$ が含まれていないということです。一方、ID = 40 の配置は、引いた n 枚のカードに $\{4, 5\}$ が含まれ $\{1, 2, 3, 6, 7, 8\}$ が含まれていないということです。ここでは、具体的にこの事象が起きる確率を式で与えることはしませんが、この 2 つの値が等しいことを確認することができます。

一般の (必ずしも T = 3 でない場合の) $T_n = t$ の下での $B_n$ の分布について考えましょう。

ビンゴカードの穴の開き方は、真ん中の free のマスが最初から穴が空いていることに留意すると $2^8 = 256$ 通りあります。この配置を T と B とに関して整理すると下記のようになります。

ここで、仮に $T = t$ の下でビンゴカードの穴の開き方の配置が全て同じ確率で実現されるとすると、$P(B | T = t)$ は下記のように計算することができます。横軸に既に穴が開けられているマスの個数 T を、縦軸に既に発生しているビンゴの数 B の分布を図示しています。

T の分布

次に、n 枚のカードが引かれた時点での、穴の空いてるマスの個数 $T_n$ の分布について考えましょう。

例えば、$T_n = t$ とはどのような状態でしょうか。これは、n 枚のカードが引かれた時点で、ビンゴカードの数字の配置 $y$ の内 $t$ 個(のマスに書かれた数字)が、引かれた $n$ 枚のカード(に書かれた数字)と一致していることを意味しています。

「ビンゴカードの 8 個のマスに全て異なる数字を書く」という戦略の下では比較的簡単に $T_n$ の分布を求めることができます。以下に $N = 50$ の場合の $T_n$ の分布を与えます。

例えば、新郎新婦が最初のカードを引いた時 (n = 1) に、自分のビンゴカードに関して、free に加えて新しく穴が空く (T = 2) 確率は 8/50 だということは直ぐに分かります。つまり、$P(T_1 = 2) = 16\%$ ということです。

B の分布

T の分布と B|T の分布が求まったので B の分布が求まります。以下に $N = 50$ の場合の $B_n$ の分布を与えます。

結婚式の二次会のように様々な仲良しグループが集合する会において、「ビンゴゲームで協力プレイが存在しない」ことを仮定するのはあまりに無理がありますが、ここでは参加者同士で協力が発生していないことにしましょう。各参加者は他の参加者とは独立にビンゴカードのマスに数字を埋めることととします。カードの枚数(マスに書いても良い数字の範囲)は N = 50 です。

新郎新婦がカードを 2 枚引いた時 (n = 2) から、各参加者はビンゴになる可能性があります。この確率は約 $P(B_2 = 1) = 0.3\%$ 程度です。ビンゴ大会の参加者が 70 人であれば、まだ誰もビンゴになっていなかったとしてもおかしくはありません。

新郎新婦がカードを 3 枚引いた時 (n = 3) に、各参加者がビンゴに既になっている確率は約 $P(B_3 = 1) = 1.0\%$ 程度です。この回で各参加者が初めてビンゴになる確率は $P(B_3 = 1) - P(B_2 = 1) = 0.7\%$ 程度です。なお、この回で 1 人で 2 ビンゴを達成する参加者はいません。

おおざっぱな計算ではありますが、新郎新婦がカードを [平均] 11~12 枚くらい引けば 14 個分の景品は無くなってしまうはずです。仮に新郎新婦が 1 人につき景品を 1 個しか与えないことにしても [平均] 13 枚くらいカードを引けば景品がなくるはずです。

ビンゴゲームで本気を出すために

ビンゴゲームで勝つためには下記に注意する必要があります。

  1. 自分のグループの参加者は協力できているが、残りの参加者は協力できていないという状況を作る。
  2. なるべく早い段階 (n の値が小さいタイミング) でグループとしてビンゴを取ることができる戦略を立てる。
  3. ルールに複数の解釈があり得る場合は、自分の所属しているグループの解釈が「正義」になるよう、自分のグループが参加者全体の中で一定の勢力になるようにする。
  4. 景品の分配対象者を不用意に増やさぬよう、自分のグループの参加者数を絞る。

実際には、「自分だけ複数の仲良しグループに参加し、自分だけこっそり複数の戦略に乗っかる」に代表されるような「相手には協力させるが自分は協力しない」戦略もあり得る訳ですが、ここではそのような複雑な戦略は考えないことにします。

以降、「あらかじめ仲良し 50 人でチームを組み『各プレイヤーが自身のビンゴカードに(プレイヤー間で異なる)ある同じ数字を全てのマスに書く』という戦略」を最低ラインの戦略として、ビンゴゲームでどのような戦略があり得るのかを考えていきます。非現実的な仮定ではありますが、自分のグループ以外の参加者は協力できていないことを仮定します。

1 つの数字を用いる戦略

ビンゴカードの数字の配置として、例えば $y = (9, 9, 9, 9, 9, 9, 9, 9)$ を選択するような戦略です。

B の分布

$N = 50$ の場合の $B_n$ の分布です。

このチャートを、「ビンゴカードの 8 個のマスに全て異なる数字を書く」という戦略を取った場合の $B_n$ のチャートと比較してみましょう。

一見すると「1 つの数字を用いる戦略」は 50 種類の数字のうち 1 種類の数字しか使っていないため、初ビンゴに至るまでには時間がかかりそうに見えます。しかし、参加者 70 人かつ景品 14 個の場合のように、n の値が比較的小さい領域 (n < 13) で勝負が決まってしまうような状況では、仮に「景品は 1 人 1 個まで」であったとしても、「1 つの数字をすべてのマスに書く」という戦略の方が若干有利なのです。これは、「1 つの数字をすべてのマスに書く」という戦略は、穴が空いた時に「ビンゴにならないような穴の空き方にならない」ということと関係しています。

「あらかじめ仲良し 50 人でチームを組み『各プレイヤーが自身のビンゴカードに(プレイヤー間で異なる)ある同じ数字を全てのマスに書く』という戦略」に関して言及しましょう。仲良しチームに入れなかった 70 - 50 = 20 人は「ビンゴカードに同じ数字を書いても良い」ことに気がつかず、さらに互いに協力できなかったとします。さらに、1 人複数景品 (1 ビンゴにつき 1 景品) もらえることとしましょう。

この戦略をとった場合、新郎新婦が最初のカードを引いた (n = 1) 時点で、まず自分のチームの誰かが 8 ビンゴを達成します。この時点で、自分のチーム以外の参加者がビンゴになる可能性はありません。次のカードを引いた (n = 2) 時点で、また自分のチームの誰かが 8 ビンゴを達成します。この時点で、自分のチーム以外の参加者がビンゴになる確率は極めて低く、この時点で残りの 20 人が貰える景品数は総計 [平均] 0.065 個です。したがって、ほぼ間違いなく景品 14 個を全て自分のチームで独占できます。景品 14 個を 50 人で山分けすれば 1 人当たり 14/50 = 0.28 個の景品がもらえます。

一見すると、この戦略が最善の戦略のように見えるかもしれませんが、実はそうではありません。この戦略の最大の問題点は「景品の分配対象者が多すぎる」ことにあります。

例えば、下記のように仲良しチームのメンバー数を 25 人に減らした方が効果的です。

この戦略をとった場合、新郎新婦が 8 枚目のカードを引いた (n = 8) 時点で、自分のチーム以外の参加者 70 - 25 = 45 人が獲得している景品数は総計 [平均] 4.4 個です。一方、自分のチームはほぼ間違いなく 1 回は 8 ビンゴしており、96% 以上の確率で 2 回 8 ビンゴしています。仮に 8 ビンゴを 1 回しか達成できなかったとしても、景品 8 個を 25 人で山分けすれば 1 人当たり 8/25 = 0.32 個の景品がもらえるので、最初の戦略よりはかなり有利になっています。実際には、景品 14 個全て獲得できる可能性が高く、その場合は景品 14 個を 25 人で山分けするので 1 人当たり 14/25 = 0.56 個の景品がもらえることになります。

この戦略の問題点は、「同じ数字を複数のマスに書いても良いのか」や「1 人に複数の景品を渡しても良いのか」などの事案で参加者の意見が割れた際に、70 人中 25 人のメンバーだけで、自分たちの「正義」を新郎新婦に説得できるのか、ということになります。

とはいえ、自分のチーム以外の参加者 70 - 25 = 45 人は「協力できない」という前提では、参加者の中に 25 人もの味方がいれば、自分たちの思い通りに「正義」を定義できるのではないでしょうか。

4 つの数字を用いる戦略

ここからはビンゴゲームにおいて更に効果的な戦略について紹介していきます。特に「景品は 1 人 1 個まで」といった条件が付いているような場合でも有効な戦略について考えていきましょう。

ビンゴカードの数字の配置として、例えば $y = (1, 2, 3, 4, 4, 3, 2, 1)$ を選択するような戦略です。

B | T の分布

ビンゴカードの穴の開き方は、真ん中の free のマスが最初から穴が空いていることに留意すると $2^4 = 16$ 通りあります。この配置を T と B とに関して整理すると下記のようになります。

$T = t$ の下でビンゴカードの穴の開き方の配置が全て同じ確率で実現されるとすると、$P(B | T = t)$ は下記のように計算することができます。

T = 3 (free 以外に穴が 2 つ空いた状態) で確実にビンゴになっているのが魅力的です。

T の分布

$N = 50$ の場合の $T_n$ の分布です。

B の分布

$N = 50$ の場合の $B_n$ の分布です。

例えば、新郎新婦が最初のカードを引いた時 (n = 1) に、自分のビンゴカードに関してビンゴが発生する (B = 1) 確率は 4/50 だということは直ぐに分かります。つまり、$P(B_1 = 1) = 8\%$ ということです。

実際、この戦略は協力プレーがなくてもかなり有利であり、n = 10 の時点で [平均] 0.83 個の景品獲得、「景品は 1 人 1 個まで」といった条件が付いているような場合でも [平均] 0.60 個の景品を獲得できます。

新郎新婦との信頼関係に自信があり、「なぜビンゴゲームで同じ数字を書いてはいけないのか」といったことで揉める可能性が低いと考えるのであれば、この戦略は非常に有力です。

また、「1 つの数字を用いる戦略」に比べると「4 つの数字を用いる戦略」は、参加者に与えるインパクトは低い(一度に景品が 8 個も無くなったりしない)ので、参加者を説得しやすいという点も見逃せません。

更に、もう少し現実的な話をすると、果たして新郎新婦は「ビンゴカードに同じ数字が書かれているかどうかチェックできるのか / 気がつけるのか」という問題もあります。前日から徹夜に近い状態で結婚式の準備をし、当日は披露宴の段で既に疲労困憊の状態です。ビンゴカードに同じ数字が全てのマスに書いてあれば気がつくかもしれませんが、今回は 4 種類の数字をビンゴカード上に散りばめているのです。しかも、同じ数字が書いてあるマスは隣接しません。したがって、「同じ数字を書いても良いか」など議題にも上がらない可能性もあります。

「4 つの数字を用いる戦略」においても、もちろん協力プレーが可能です。仲良し 12 人でチームを組むと下記のようになります。

厳密には計算していませんが、1 人当たり 1 個に近い景品を獲得できるのではないかと考えています。「景品は 1 人 1 個まで」といった条件が付いているような場合であっても、かなり有力な戦略だと考えています。

基本戦略における協力の在り方

ここまで「『同じ数字を複数のマスに書いて良い』ことに関して、自分のチームの参加者は気づいているが、残りの参加者は気づいていない」という前提で最善戦略を考えてきました。

しかし、ビンゴゲームのルールに関して「同じ数字を複数のマスに書いてはいけない」と明記されていた場合はどうすれば良いのでしょうか。実は、「ビンゴカードの 8 個のマスに全て異なる数字を書く」という基本戦略においても、プレイヤー間の「協力」は重要です。ビンゴゲームは運任せのゲームではないのです。

今回は、この基本戦略における協力の在り方については深く説明しませんが、皆さんも友人の結婚式の二次会でビンゴゲームなどに参加される場合は、注意深く意思決定を行っていただくよう、よろしくお願いいたします。

また、私の大学以来の友人である新郎新婦に対しては、改めて結婚おめでとうございますの意を表したいと思います。