いちから始める量子コンピュータ入門(2)シュレジンガー方程式の解


いちから始める量子コンピュータ入門(1)量子とシュレジンガー方程式
いちから始める量子コンピュータ入門(3)量子ビットとは

シュレジンガー方程式を解く

シュレジンガー方程式は、以下のとおりでした。ここで、$H$は、ハミルトニアンです。

$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(\boldsymbol{r},t)=H\psi(\boldsymbol{r},t)$$

この方程式にたいして、時間と座標が分離された$\psi(\boldsymbol{r},t)=\varphi(\boldsymbol{r})f(t)$という解(特解)を考えます。これを、上の方程式に代入します。
$$i\hbar\varphi(\boldsymbol{r})\frac{d}{dt}f(t)=f(t)H\varphi(\boldsymbol{r})$$

両辺を、$\varphi(\boldsymbol{r})f(t)$ で割ります。
$$\frac{i\hbar}{f(t)}\frac{d}{dt}f(t)=\frac{1}{\varphi(\boldsymbol{r})}H\varphi(\boldsymbol{r})$$
ここで、左辺は、$t$ だけの関数、右辺は、$\boldsymbol r$ の関数なので、これは定数でなけいといけません。その定数を、$E$として、左辺を計算すると、
$$\frac{d}{dt}f(t)=-i\frac{E}{\hbar}f(x)$$
となり、解は、
$$f(t)=Ce^{-i\frac{E}{\hbar}t}$$
となります。これは、ポテンシャルには関係しません。

つぎに右辺は、以下のようになります。
$$H\varphi(\boldsymbol r)=E\varphi(\boldsymbol r)$$
これは、量子力学では、時間に依存しないシュレジンガー方程式と呼ばれます。ここで、$E$は、エネルギーと解釈できます。また、これは数学的には固有値方程式です。

固有値方程式とは、ある行列$A$と定数$\lambda$があって、$A$をあるベクトル$\boldsymbol x $に掛けても、$\lambda$倍される $A\boldsymbol x = \lambda \boldsymbol r$ ような$\lambda$ と $\boldsymbol x$ を求めるという方程式です。そのような$\lambda$ は固有値、$\boldsymbol x$ は固有ベクトルと呼ばれます。固有値と固有ベクトルは、セットで解がでてきます。

上の固有方程式を解くと、各固有値、固有ベクトルに対応した解がもとめられます。
$$(E_1,\varphi_1),(E_2,\varphi_2),....$$
これは、独立した多数の解です。ここで、$\varphi_1,\varphi_2$ などは、エネルギー固有状態、$E_1,E_2$ などは、エネルギー固有値と呼ばれます。このように、エネルギーが確定した状態のことを、量子力学では定常状態を呼ばれます。

ここで、左辺の解を、$$\psi(\boldsymbol{r},t)=\varphi(\boldsymbol{r})f(t)$$ に代入すると、解は、$$\psi(\boldsymbol{r},t)=\varphi(\boldsymbol{r})Ce^{-i\frac{E}{\hbar}t}$$ となります。

波動関数の絶対値の2乗が、量子の存在確率ですから、それを計算すると、
$$|\psi(\boldsymbol{r},t)|^2=|\varphi(\boldsymbol{r})Ce^{-i\frac{E}{\hbar}t}|^2=|C|^2|\varphi(\boldsymbol{r})|^2$$
となり、これは時間に依存しません。こういう意味で、定常状態と呼ばれています。

ここまでは、変数分離された特解を考えてきましたが、一般解は、特解の線形結合つまり重ね合わせで表せます。
$$\psi(\boldsymbol{r},t)=\sum_{n}Cn\Large{e}\normalsize^{-i\frac{E_n}{\hbar}t}\varphi_n(\boldsymbol{r})$$

固有値 $E$ が連続スペクトルを持つ場合は、以下のようになります。

\psi(\boldsymbol{r},t)=\int C(E)\Large{e}\normalsize^{-i\frac{E}{\hbar}t}\varphi_E(\boldsymbol{r})dE

シュレジンガー方程式を解く、無限に深い井戸型ポテンシャルの場合

一次元の時間に依存しない一次元シュレジンガー方程式は、以下の通りでした。

\left\{ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{d x^2} +V(x) \right\}\varphi(x)=E\varphi(x)

これを、以下の無限に深い井戸型ポテンシャルについて解きます。

V(x) = 
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      0 \ (|x|\leqq a)\\
      \infty \ (|x| \gt a)
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}

これは、$x$ が、$\pm a$の外側では、存在しえないという条件です。

$|x|\gt a$のとき

$V(x)$が無限大だから、$\varphi(x)=0$ でないといけない。

$V(x)=0 (|x|\leqq a$ のとき

$$-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{d x^2} \varphi(x)=E\varphi(x)$$

書き換えると、

$$ \frac{d^2}{d x^2}\normalsize{ \varphi(x) =-\frac{2mE}{\hbar^2}\varphi(x)}$$

ここで、$k=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}\ (\geqq 0)$ とおくと、

$$ \frac{d^2}{d x^2} \varphi(x) =- k^2 \varphi(x)$$
$$ \varphi(x)=Asin(kx)+Bcos(kx)$$

ここで、波動関数の連続性を課すと、井戸の両端では、$\varphi(x)$は、$0$となるので、

\varphi(a)=Asin(kx)+Bcos(kx)=0\\
\varphi(-a)=-Asin(kx)+Bcos(kx)=0

両式から、以下の条件を満たさないといけない。

Asin(ka)=0 \\
Bcos(ka)=0

$A$ と $B$ が、ともに$0$なら、波動関数は、全領域で $0$ になるので、意味がないから、共に $0$ でない解を考える。

A=0, \ ka=\frac{n\pi}{2}\ (n=1,3,5...)\\
B=0, \ ka=\frac{n\pi}{2}\ (n=2,4,6...)

従って、$k=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}$ より

$$ E_n = \frac{\hbar^2k^2}{2m}=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2} \ (n=1,2,3,4,...)$$

\varphi_n(x) = 
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      Bcos(\frac{n\pi}{2a}x)\ (n=1,3,5...)\\
      Acos(\frac{n\pi}{2a}x)\ (n=2,4,6...)
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}

これが、シュレジンガー方程式の解です。これを図示すると、以下のようになります。
限られた範囲にしか粒子が存在しない場合(これを束縛状態という)、エネルギーは離散的な値を取ります。
これから扱う、量子コンピュータの量子ビットも、まさしくこの束縛状態にある量子を用います。また、用いる量子の状態は、基底状態と第一励起状態です。

まとめ

時間によらないシュレジンガー方程式
$$H\varphi(\boldsymbol r)=E\varphi(\boldsymbol r)$$

特解  
$$\psi(\boldsymbol{r},t)=\varphi(\boldsymbol{r})Ce^{-i\frac{E}{\hbar}t}$$

一般解 
$$\psi(\boldsymbol{r},t)=\sum_{n}Cn\large{e}\normalsize^{-i\frac{E_n}{\hbar}t}\varphi_n(\boldsymbol{r})$$

$E$が連続スペクトルをもつ場合
$${\psi(\boldsymbol{r},t)=\int C(E)\large{e}\normalsize^{-i\frac{E}{\hbar}t}\varphi_E(\boldsymbol{r})dE
}$$

無限に深い井戸型ポテンシャルの場合

$$ E_n = \frac{\hbar^2k^2}{2m}=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2} \ (n=1,2,3,4,...)$$

\varphi_n(x) = 
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      Bcos(\frac{n\pi}{2a}x)\ (n=1,3,5...)\\
      Acos(\frac{n\pi}{2a}x)\ (n=2,4,6...)
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}

参考

予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」【大学物理】量子力学入門③(定常状態)【量子力学】
予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」【大学物理】量子力学入門④(無限に深い井戸型ポテンシャル)【量子力学】