いちから始める量子コンピュータ入門(1)量子とシュレジンガー方程式


いちから始める量子コンピュータ入門(2)シュレジンガー方程式の解

量子コンピュータの勉強をはじめて、戸惑ったこと

量子コンピュータの入門書を読むと、最初に、量子ビットが、α|0⟩+β|1⟩ といった形ででてきます。量子ビットってなになの、その前に量子ってなになのかということと、この量子ビットの表現の間に大きなギャップを感じます。

従来型のコンピュータ(量子コンピュータの業界では、古典コンピュータと呼ばれます)で、例えば、深層学習を勉強するのに、MOSトランジスタから始める人は、さすがにいないでしょうが、量子コンピュータとなると別です。量子や量子ビットが、物理的にどのように作られて、どのような振る舞いをして、それを使って、どのような計算ができるのか。やはり、気になります。

量子とはなにか

粒子と波の両方の性質を両方もつ原子、電子、中性子、陽子などが量子の代表的なものです。光を粒子としてみたときの光子も量子に含まれます。粒子と波の二重性をしめす典型的な実験に、二重スリット実験というものがあります。

 

電子を二重スリットに打ち込んだとき、電子は、波の性格と粒子の性格をもつので、スクリーンには干渉縞が現れるというものです。

粒子の持つエネルギーを$E$、運動量を$p$とすると、粒子を波とみたときの、振動数$\nu$、波長$\lambda$は、以下のようになります。

$$\nu=\frac{E}{h},λ= \frac{h}{p}$$

ここで、$h$ は、プランクの定数というもので、$6.62607015\times10^{-34} Js$と非常に小さく、質量$m$が、小さくないと波として観測はされません。量子コンピュータでは、粒子の波としての振る舞いを用いますので、粒子としては、非常に小さな粒子を用いる必要があります。

また、位置と運動量が両方確定している状態は存在しないというのも、非常に大切な性質です。

$$ΔxΔp\ge\frac{ћ}{2} \hbar=\frac{h}{2π}$$

$Δx$は、位置の広がり、$Δp$は、運動量の広がりです。位置の不確かさと運動量の不確かさは、十分に小さくはできるが、0にはできない。つまり、位置を確定しようとすると正確な運動量はわからないし、運動量を確定しようとすると正確な位置はわからないということです。

このような波と粒子の性格を合わせもつものを、量子といいます。このような性格を持つ量子ですが、量子コンピュータでは、量子は、粒子として扱われるのではなく、波として扱われます。そして、その波は、粒子としての量子、そのものだということです。

ハミルトニアン

古典力学では、運動エネルギーと位置エネルギーの関係は、以下の通りです。これは、エネルギー保存の法則と呼ばれています。

E = \frac{p^2}{2m} + V(x)\\
 \\
E : 全エネルギー \\
m : 粒子の質量\\
v (=dx/dt) : 粒子の速度\\
p (=mv) : 粒子の運動量\\
mv^2/2 (=p^2/2m) : 運動エネルギー\\ 
V(x) : 位置エネルギー \\

この右辺をハミルトニアンと呼び、$H(x,p)$ と書きます。

$$H(x,p)=\frac{p^2}{2m} + V(x)$$

$H(x,p)$ が決まれば、以下の関係が得られます。これは、ハミルトンの正準方程式と呼ばれます。

\frac{dx}{dt}=\frac{\partial H(x,p)}{\partial p}=\frac{p}{m}\\
速度は運動量を質量で割ったもの。\\
\frac{dp}{dt}=\frac{\partial H(x,p)}{\partial x}=-\frac{dV}{dx}\\ 
運動量の時間微分、すなわち力は、位置エネルギーを位置で微分したもの。

これは、以下のニュートンの運動方程式と同じです。

m\frac{d^2 x}{dt^2}=-\frac{dV}{dx} 質量×加速度=力

ここで問題は、上の式では、位置と運動量が確定していないといけないということです。量子の世界では、位置と運動量は、同時に確定しません。

シュレジンガー方程式

そこで、$|\psi(x,t)|^2$ が、粒子の存在確率をあらわす、位置と時間の関数、$\psi(x,t)$という関数を考えて、以下の関係をみたすようにします。この関数は、波動関数と呼ばれます。ここでは、簡単にするために、一次元で考えていますが、容易に、多次元に拡張することができます。

$$\nu=\frac{E}{h},λ= \frac{h}{p}$$$$ΔxΔp\ge\frac{ћ}{2} \hbar=\frac{h}{2π}$$

結論としては、以下の関数をもちいれば、上記の条件を満たすことができます。

$$\psi(x,t)=A{sin(\frac{p}{\hbar}x-\frac{E}{\hbar}t)+icos(\frac{p}{\hbar}x-\frac{E}{\hbar}t)}=Ae^{i(\frac{p}{\hbar}x-\frac{E}{\hbar}t)}$$

ここで、以下の関係をもちいて、$E = \frac{p^2}{2m}$を表してみと、

$$\frac{\partial \psi(x,t)}{\partial t}=-i\frac{E}{\hbar}\psi(x,t)$$ $$\frac{\partial^{2}\psi(x,t)}{\partial x^2}=-i\frac{p^2}{\hbar^2}\psi(x,t)$$
結果は、このようになります。
$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(x,t)=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t)$$ 

ここで、i\hbar\frac{\partial}{\partial t} は E を、
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}は\frac{p^2}{2m} を表してます。\\
Eを、i\hbar\frac{\partial}{\partial t} に、pを、-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}で置き換えたとも言えます\\
この置き換えは、物理量の演算子化(量子化)と呼ばれます。

 
これが、自由粒子すなわちポテンシャルがない場合の波動関数が満たすべき方程式、シュレジンガー方程式のです。

ポテンシャル $V(x)$ があると、以下のようにになります。

i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(x,t)=\left\{ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2} +V(x) \right\}\psi(x,t)

ハミルトニアン $$H=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x)$$ を用いて表すと、以下のようになります。

i\hbar\frac{d}{dt}\psi(x,t)=H\psi(x,t)

このシュレジンガー方程式が、量子の振る舞いを説明する方程式です。
エネルギーと運動量、ポテンシャルに場所、時間で変化する波動関数 $\psi(x,t)$ を掛けたものが等しいという関係を表しています。この方程式の解、$\psi(x,t)$をもちていて計算される $|\psi(x,t)|^2$ が、量子の存在確率を表します。

これまでは、1次元で考えてきましたが、3次元に拡張すると以下のようになります。

$$\nabla^2=\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}+\frac{\partial^2}{\partial x^2}$$

i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(\boldsymbol{r},t)=\left\{ -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V(x)\right\}\psi(\boldsymbol{r},t)

ハミルトニアンをを用いて表すと、以下のようになります。

H= -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V(x)\\
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(\boldsymbol{r},t)=H\psi(\boldsymbol{r},t)\\

参考

予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理【大学物理】量子力学入門①(量子の特徴)【量子力学】
予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理【大学物理】量子力学入門②(シュレーディンガー方程式)【量子力学】