正負双方向定電流回路の理論と解析


目的

よく知られているオペアンプを利用した定電流回路は正方向にしか電流を流すことができない。中間電位をとることで双方向にした定電流回路も存在するが、ツェナーダイオードを利用しており、安定した回路を作ることが難しい。本記事では、オペアンプをBTL接続した定電流回路の理論的解説と、spiceによるシミュレーションを行う。

原理

まず、よく知られているオペアンプを用いた定電流回路を図1に示す。

図1 オペアンプを用いた定電流回路

Rlは負荷である。Rlに流れる電流をIとすると、

I = -Vin / Rs ・・・(1)式

となる。
Vinは0以上、電源電圧も0以上であるから、出力電圧及び電流が負になることは無い。

ここで、図1をよく見ればGNDを基準とした電位をとっていることが分かる。
即ち、GND電位をVgとすれば(1)式は、

I = -(Vin - Vg) / Rs  ・・・(2)式

となる。
(2)式は、

Vin < Vg

の場合はIが負になる。
そこで、VgをVoutの反転電位とする。
即ち、Voutの後段にゲインが1の反転増幅器を接続し、図1でGNDと接続されている部分に接続する。

図2.後段にゲイン1の反転増幅器を接続した場合
(電源電圧をVCCとする)

すると図2になる。反転増幅器の動作点は電源電圧VCCの1/2としている。
Vgが変動するため、Vinは電気的に絶縁したい。そこで、トランスを介してVinを接続する。

図3.Vinをトランスを介して接続した場合

したがって、図3となる。

解析

spice系回路シミュレーションソフトであるtinaを用いてシミュレーションを行った。

図4.tinaを用いてシミュレーションした正負双方向定電流回路

定電流特性を調べるため、正負双方向定電流回路を二つ用意し、負荷に繋がれたコイルを結合係数0.5で結合させた。定電流特性があるならば、片方に流れる電流に依らず、コイルに流れる電流の位相は入力信号の位相と一致するはずである[1]。

結果


図5.各部の電流電圧の波形

表1.入力電圧と負荷電流の関係

考察

表1.から、負荷電流の位相は入力電圧の位相と一致し、負荷の端子電圧に依らないことがわかる。また、図5から負荷電流は負にもなっており、正負双方向定電流回路を実現できていることがわかる。この回路で特質すべきことは、定電流特性は前段のアンプのみが担っているということである。すなわち、後段の反転増幅器は定電流性に影響を与えない。ゲインの誤差、動作点の誤差は一切影響しないため、安定した定電流特性を得ることができている。

脚注

[1] シミュレーションデータ