XD60キットで親指シフトキーボードを作る


親指シフト使いの苦悩

  • 生産終了してしまった純正キーボードの確保に奔走する
  • 左右の親指でなんとか別のキーを押せるような配置のJISキーボードを頑張って探す
  • OSがバージョンアップするたびに、ソフトがちゃんと動くか心配になる

キーボードを自作すればこんな悩みともおさらばだ!

本稿ではXD60という中華キーボードキットを使った親指シフトキーボードの制作に的を絞って、ハードウェア・ソフトウェアの両面から解説する。

対象

富士通の開発した親指シフト入力を使って日本語を入力している人。
PCの操作に多少あかるい。
ハンダゴテを最低限使える。(細かい半田付けは一切不要。)

方針

自作キーボードと言っても、自分で部品から設計する必要はない。自作PCと同じで、既成部品を買ってきて組み立てればOK

  • 自作キーボードのキットを買ってきて、組み立てる。
  • 組み立てたキーボードに、QMK firmwareを書き込む。キーボード内で親指シフト入力をローマ字に変換して出力できる。
  • PCやMac上で、配列変換ソフトウェアは使わない。

完成予想図

親指シフトに使う場合、今現在、通販で入手可能なキットの中では、XD60 VER3.0が使いやすい。
以下のようなキーボードを組み立てることができる。

以下のような特徴をもつキーボードとなる。

  • 日本語入力はNICOLA-A規格
    • ANSI配列をベースとした親指シフト配列の標準規格。
    • 右手小指の右側のキーに後退キーを割り当てることができる。
  • 英数モードはANSI配列
    • 長期的に部品の入手が容易。
    • 親指シフトを使わない人でも普通の英語キーボードとして使うことができる。
    • Enter, 右Shiftなどが右手小指の近くに配置されている。右手小指が楽。
  • 60%キーボード
    • F1~F12や矢印キーなどは、Fnキーとセットで打鍵する。HHKBのような思想のキーボード。
    • Fnキー+親指キーを変換・無変換に割り当てて、日本語入力特有の多くの機能を楽に使うことができる。
    • 矢印キーを追加することも可能。

予算

どこで何を買うかにもよるが、最低15000円程度は必要だろう。

通販サイト

  • AliExpress
    • 英語。
    • 送料無料。
    • 普通郵便で送られてくるせいか、届くまでに時間がかかる。
  • 淘宝 (taobao)
    • 中国語。
    • 品揃えが豊富で入手困難なキット等もある。安い。特にキーキャップの品揃えが素晴らしい。
    • 送料がかかるが、まとめて国際発送してもらえるので高くはない。速い。数日で届く。

以下ではAliExpressで購入するリンクを示すが、中国語ができるなら淘宝で買うほうが良い。

買うものリスト

  • 基板(PCB) XD60 Ver3.0
    • スイッチを読み取ってUSBの信号に変換する基板。
    • 単品買い推奨。 商品リンクでは、キットでまとめ買いできるようになっているが、親指シフトに使いづらい部品が付いてきてしまう。スイッチはまとめて買っても良いかも。(Kit 10)
  • プレート Carbon Fiber Plate for XD60
    • キースイッチを決まった位置に固定する部品。
    • 親指キーを左右分割して実装する場合、XD60キットのプレートでは駄目。この別売りプレートを買う。
    • 2.25uと2uの2種類があり、標準的な配列は2.25u。右シフトを詰めて矢印キーを導入する場合、2u版を選択してもよい。(ここでは解説しない)
  • ケース
    • キーボードを収める箱。好きな色・材質・形状が選べる。
    • 中華の60% Keyboardキットはみんな共通のケースが使える。GH60用ケースは何でも使える。
    • XD60キット付属のプラスチックケースは$5程度のショボいものなので避けたほうが無難。
  • スタビライザー
    • シフトキーやスペースキーなど、幅広のキーに取り付ける部品。
    • PCB用スタビライザーと、プレート用スタビライザーの2種類があるけど、XD60ではPCB用を使う。
    • 上記の配列なら2uスタビライザー4つ、3uスタビライザー2つ必要。
  • スイッチ
    • 上記の配列なら62個必要。
    • 打鍵感の違いで色分けされている。
    • ドイツのCherryや、中国のGateron, Kailhなどが人気。Outemuなど安価なスイッチもある。
  • キーキャップ kprepublic Cherry profile Dye-sub Keycap Set Thick PBT
    • XD60で親指シフトする場合、通常の60%キーボード用のセットに加え、追加で3U(キー3個分の幅)のスペースのキーキャップを2つ購入する必要がある。3UのスペースバーはFILCO Minilaというキーボードで採用されている。
    • 3Uをセットと別で買う場合、色味が微妙に違ってしまう場合があるので注意。
    • このセットならば Base, Mod, Mod-Pro, 2 x Spacebar を購入するとよいだろう。
  • USBケーブル (Type-C)
  • 半田ごて、半田
    • 細かい作業は不要なので、使ったことなくても挑戦してみてもよいと思う。
    • 60W級の比較的強めの半田ごてだと作業しやすい。

組み立て

  • PCBが届いたらまずはUSBケーブルを挿して動作確認。スイッチのパターンをピンセットなどでショートさせてちゃんとキーが入力されるか確認。

  • 部品実装面

  • スタビライザーを取り付け

    • 工具不要。ぷちぷちと差し込むだけ。 一番手前の親指キーに対応するスタビライザーは、他のと前後逆に取り付けることに注意。
  • プレートにスイッチを差し込み、PCBの対応する穴に通す。スイッチ→プレート→PCBの並び。

  • スイッチを通し終わったら、裏面に半田を流す。

    すっごく汚いけどこの程度しかハンダごてを使いこなせなくとも、容易に組み立てられる。

  • 部品実装完了状態。Fnキーには軽いタッチの赤軸スイッチを割り当てた。

  • ケースに入れて、ネジをしめる。

  • キーキャップを取り付ける。

  • 組み立ててそのままでは、親指シフトキーボードとしては使えないが、キーを押してみて一通り反応するか確認。

既製ファームウェアの書き込み

いよいよ親指シフト化となる。

  • QMK Toolbox というソフトウェアをインストール。
  • 親指シフト入力をローマ字に変換するカスタムファームウェアを書き込む
    • このリンク を開いて, Raw ボタンを右クリックして、ファイルにセーブ
    • USB cableをキーボードから抜いておく
    • スペース + Bを押したままUSB cableをキーボードに挿すと、DFU deviceが接続される。キーボードとしては使えず、ファームウェアを書き込む状態。
    • QMK toolboxを起動すると、DFU device connectedという黄色い表示が見えるはず。
    • hex fileを選択して Open、「Flash」ボタンを押す。
    • 書き込み完了すれば親指シフトキーボードとして動作開始する。

既製ファームウェアの使い方

QMK firmwareを使えば高度なカスタマイズが可能だけど、上記のファームウェアを使う場合の使い方を以下で解説する。

このキーボード、見た目は ANSI 配列だけど、WindowsやIMEなどの設定はJISキーボードとして設定する。また、ローマ字入力を選択する。すなわち、

  • 従来JISキーボードを使っていた人は、ソフトウェアの設定は変更しないでいいだろう。
  • 従来ANSIキーボードを使っていた人は、IMEなどの設定を変更して、JISキーボードを使うように変更する。
  • 従来親指シフトキーボードを使っていた人は、配列変換などのドライバーソフトウェアをオフにする。また、IMEの設定などで、ローマ字入力を選択する必要があるだろう。

コンパクトなキーボードなので、多くの機能はHHKB等と同様、Fnキー併用押しが必要となる。

Fnキーは2つある。一番左下のキーと、右下の右から2番目のキー。
IMEのOFF・ONは Fn + 親指左・親指右 で操作する。これらのキーはそれぞれ 無変換・変換 に割り当てられている。

押下 出力 思想
Fn + 親指左 無変換・英数状態に遷移 純正親指シフトキーボードに近い使い勝手を想定
Fn + 親指右 変換・親指シフト状態に遷移 純正親指シフトキーボードに近い使い勝手を想定
Fn + HJKL ←↓↑→ vi に準ずる
Fn + U / I PgDn / PgUp J/K と同様の向き
Fn + Y / O Home / End H/L と同様の向き (テキスト編集の際)
Fn + Backspace Del
Fn + ' Del
Fn + P Print Screen
Fn + ] Pause
Fn + 1~12 F1 ~ F12 HHKB に準ずる

(注) Scroll Lock は誤入力防止のため削除してある

ファームウェアのカスタマイズ方法

上記のデフォルトファームウェアからレイアウトを変更したい場合は、QMKファームウェアをカスタマイズすることができる。

QMKのセットアップガイド通りに、開発環境を導入する。Windows、Mac、Linuxのどれかが必要。WindowsならばQMK MSYSというソフトウェアをインストールするだけでよい。

git clone --recurse-submodules https://github.com/sadaoikebe/qmk_firmware.git
  • キーマップの書き換え

    • keyboards/xiudi/xd60/keymaps/nicola/keymap.c を編集
    • FNキーの場所や、矢印キーの割り当てなどは好みに応じて変えたほうが良いだろう。
  • ビルド

qmk compile -kb xiudi/xd60/rev3 -km nicola
  • DFUで書き込み

ファームウェアを書き換えるには、上記と同じで、キーボードをDFU状態で接続しておく。(Space + B を押しながらUSBケーブルを挿す)

qmk flash -kb xiudi/xd60/rev3 -km nicola

トラブルが発生した場合

何か問題が発生したり、わからないことがあったりしたらqiitaもしくはfacebookで私に質問してください。
お使いの環境でうまく動かなかった場合などでも、報告いただければできる範囲で対処いたします。
質問してくださることによって、本稿の品質が上がり、親指シフト使いの将来の助けになります。

以上