メキシコ:農業補助金データのトラッキング ~ドキュメンタリー「10 tactics」より


こんにちは。ブロガーや市民メディアが主役のシビックメディアグローバルボイスでエディターをしているKeiko Tanakaと申します。

この記事Civic Tech (シビックテック)をテーマにした、「Civic Tech Advent Calendar」企画第8弾の記事で、クリスマスまで、様々な人が様々な記事を日替わりでお届けします。
他の記事はこちらの一覧から見れるようになっており、日ごとに記事が増えていく予定です。

記事のテーマについて

今回は、蔵出しになってしまいますが、2009年に公開されたタクティカルテクノロジーコレクティブ(本部はベルリン)が制作した「情報アクティビズム」に関するドキュメンタリー「10 tactics」に登場する、メキシコで農業補助金データのトラッキングの事例について紹介します。

メキシコは2002年に「情報公開及び政府公共情報へのアクセスに関する法律(LFTAIPG)」が施行しており、政府関係機関に情報公開申請に対応する義務があります。今年のオープンデータインデックスのスコアは日本より低かったものの、情報自由化法が先進的とも言われています

今回紹介するケーススタディは2008年に開始されたプロジェクトに関するもの。
当時の日本で私はオープンデータやシビックエンジニアリングについて一緒に語れる仲間がおらずさびしい思いをしていた頃に訳したものです。しばらく前のものになりますが、技術者、ジャーナリスト、市民、パン屋さん、歌手・・・多様な人が政策の意思決定により関心を持ち、参加できるよう、これから日の出を迎える日本には役立つ情報を共有できれば何よりです。(と言いつつ、難易度の高い事例の紹介ですが)

FARM SUBSIDY TRACKING

農業補助金データのトラッキング

  • 利用したツール: PHPとWordpress、Linuxサーバ、MySQLを利用したポータルサイトの開発
  • リーチ: メキシコに焦点をあてているが、国際的にも認知される
  • コストレベル: 高(ポータルサイトの構築やプロジェクトマネージャー、プログラマ、データアナリストなどなどスタッフに費用がかかる)
  • リソース: コンピューター、サーバー、ブロードバンド接続
  • 難易度: 5/5
  • URL: http://subsidiosalcampo.org.mx/

メキシコでは、農村部の補助金は数十億ドルに達し、農村の生活に貢献し、農家の経済を助けています。ところが、これらの補助金の多くは、流用され、本来の意図しない人の手に渡ることが少なくありません。こうした補助金情報の入手は困難で使い道を把握することはさらに難しい状況にあります。

そこで農業補助金の追跡プロジェクト(Subsidios al Campo)が始動しました。公的予算の分析調査と市民参画を推進するメキシコの団体(Fundar)と、農村生産者のグループ(ANEC)、カリフォルニア大学 サンタクルス校、環境ワーキンググループが協力して、2008年に開始したもので、経済的インセンティブがメキシコ農村部でどのように分布しているかについてナレッジのデータベースを構築しました。

このプロジェクトでは、6つの国の補助金プログラムの情報を自動的に利用可能な状態にするウェブサイトを使って、農業補助金の使われ方がいかに農業従事者に影響するか光を当て、補助金の利用についてアカウンタビリティや透明性を訴求しました。

この補助金追跡プロジェクトは、既に利用可能なデータを活用するために様々な分野の研究者や、技術者、ジャーナリスト、市民グループが協業したものです。
プロジェクトのスクリーンショット

プロジェクトの目的

このプロジェクトは以下のような目的がありました。

  • 農業助成金の透明性を強化し、どのような資金が農業助成金のプログラムに組み込まれているのか分析する
  • パブリックな情報について、「情報公開及び政府公共情報へのアクセスに関する法律」 (LFTAIPG)をベースとし、知る権利、アクセス権を推進する
  • 収集した情報や証拠に基づき、中規模・小規模農家にとって豊かな生活が送れるような意思決定プロセスや政策変更を求める

プロジェクトのウェブサイトでは、1994年からのデータが国レベル、州レベル、自治体レベルで閲覧できるようになっており、補助金配布予測も見える化されています。
補助金リストは検索することも可能で、個人や企業ごとにランキング化されているので、補助金を 「もっとも受け取った順 」 に見ることもできます。

プロジェクトが導いたもの

同プロジェクトでは350,000もの情報を調査し、政府の情報を分析できるプラットフォームとして注目を集めました。こうした情報を、アナリストや市民団体が活用して、農村部の経済政策の変革を求める手助けとなりました。

このように情報を集め、分析できる状態にしたことで、農業助成金についてメディアからも注目を集めるようになりました。その後、 助成金の余剰需給分について返還を求める報道が出るなど、総じて不適切な管理により配布された助成金は5億ドルに及ぶという予測数値もでています。同プロジェクトの取り組みは、政府の情報公開と管理の透明性を促すことにつながったといえるでしょう。

参照:

この記事はJuan Casanuevaが執筆した、Tactical Technology Collectiveのサイトの記事をもとに翻訳、要約したものです。