【夜も眠れない】マーケットプレイス型プロダクトが直面する3つの課題


この記事はCrowdWorks Advent Calendar 2018の20日目の記事です。

はじめまして、古田(フルタ)と申します。
クラウドワークスというプロダクトのプロダクトマネージャーを務めています。

クラウドワークスをご存知無い方向けに説明すると、クラウドワークスは、

  • 「役務」を媒体として
  • クライアントとワーカーが
  • オンラインでお仕事マッチングをすることができる
  • マーケットプレイス型のプロダクト

です。

「マーケットプレイス」という言葉に耳馴染みの無い方は、

  • 国内:メルカリ・ラクマ・minne
  • 海外:Uber・Airbnb

といったプロダクトをイメージしていただくと良いかもです。

マーケットプレイスでは、売り手と買い手のツーサイドが存在し、各々が合理的経済人(経済合理性の最大化を意図して動く人)として市場の中で自由に振る舞います。

そのため、市場の運営者たる企業であっても、完全にはユーザーの動きを制御することは不可能です。そして、一度市場が動き始めてしまうと方向の修正が非常に困難な代物です。

また、国内であるとマーケットプレイス型プロダクトに関する情報は数が少なく、難易度に対して、ノウハウが公開されていないことが実情ではないでしょうか。

そこで、「マーケットプレイス型プロダクトが直面する、夜も眠れない3つの課題」と題して、クラウドワークスを実例に、過去そして現在もなお直面している3つの課題を紹介していきたいと思います。最後の見出しに「情報源」に関するおまけも書きました。

夜も眠れない3つの課題とは?

ずばり、以下の3つです。

  • 市場の厚み
  • 混雑の解消
  • 安心・安全な取引

それぞれについて、「とは?」「クラウドワークスの場合」といった形で話を進めていこうと思います。

ざっくりイメージとしては、以下の通りです。

  • 市場のユーザー数が増えることで(市場の厚み)
  • 情報の探索コストの増加、マッチングの非効率が発生するとともに(混雑の解消)
  • 市場をハックして悪用してくるユーザーが現れる(安心・安全な取引)

では、行きます。

1.市場の厚み 〜鶏と卵とレモン〜

1-1.市場の厚みとは?

市場が成立するためには、

  • 需要を満たす供給
  • 供給を満たす需要

が必要です。

この需給のバランスを満たすことで、

  • より多くの売り手が、より多くの買い手にアクセスできる
  • より多くの買い手が、より多くの売り手にアクセスできる

ようになり、

  • より多くの売り手がいるところに、買い手が集まる
  • より多くの買い手がいるところに、売り手が集まる

といった好循環が生まれ、市場に「厚み」が生まれます。

「需給のバランスを満たす」と簡単に書いたものの、これがマーケットプレイス型プロダクトにおける最初にして最大の関門 です。

関門たる所以は2つ。

まず、所謂「鶏が先か、卵が先か」の問題。
「需要が無いところに、供給は起こらない」「供給が無いところに、需要は起こらない」ため、(多くの場合)人力で鶏(需要)か卵(供給)かのどちらかを集めてくる必要があります。

次に「レモン市場」の問題。
仮に「鶏を先に集めるぜ!」と決めて、量だけ集めたとしても、質が伴わない場合、所謂レモン市場に陥ります。詳細は後ほど触れます。

1-2.鶏と卵の問題とクラウドワークス

クラウドワークスで置き換えるなら以下の通りです。

  • 仕事があるから、ワーカーが集まる
  • ワーカーがいるから、仕事が集まる

結論として、 クラウドワークスの場合「ワーカーがいるから仕事が集まる」 と考え、プロダクト開始当時はワーカーを「フリーランスエンジニア」に絞って集客を開始しました。

理由としては、プロダクト開始当時は2011年であり、現在と同様にエンジニアは売り手市場でした。そこで、初期では「フリーランスのエンジニアの集客を優先的に行い、仕事は後から付いてくる」という考え方でした。

結果的に、「フリーランスエンジニア」という市場に「厚み」が生まれ、「働く」というドメインをコアにしながら、在宅ワーカー→副業サラリーマンと市場を広げています。

1-3.レモン市場とクラウドワークス

まず、レモン市場とは、以下の通りです。

経済学において、財やサービスの品質が買い手にとって未知であるために、不良品ばかりが出回ってしまう市場のことである。

引用:レモン市場 - Wikipedia

クラウドワークスで置き換えるなら以下の通りです。

  • 誰が良いワーカーであるか分からないため、クライアントは高額な仕事依頼を避ける
  • どれが良い仕事であるか分からないため、ワーカーは積極的な応募や契約を避ける

つまり、「取引相手のことが分からない」 がために、良いワーカーや仕事が市場から去ってしまうような状態の市場のことです。

対策としては、「情報の非対称を無くす」こと であり、まずは以下のような状態にまで持っていく必要があります。

  • 誰が良いワーカーであるのか、クライアントが分かる
  • どれが良い仕事であるのか、ワーカーが分かる

クラウドワークスをより健全な市場として成長させるためには、市場への参加者を増やすという「量」の観点だけではなく、情報という「質」の観点とのバランスがポイントです。

特に、クラウドワークスの場合、後者の課題解決がまだまだ十分ではなく、目下取り組んでいます。

2.混雑の解消 〜探索コストとマッチング効率〜

2-1.混雑の解消とは?

厚みを獲得した市場は、混雑を引き起こします。

混雑には種類があり、主に以下の通りです。

  • 情報が多くなったことで、探索コストが高くなる
  • 一部の売り手(買い手)に、買い手(売り手)が集中し、マッチング効率が悪化する

具体例で説明した方が良いと思うので、早速クラウドワークスを例に説明したいと思います。

2-2.混雑による「探索コスト」の高まり

まず、「情報が多くなったことで、探索コストが高くなる」ことに関して。

クラウドワークスでは常時、数多くのワーカーと仕事が市場に存在しており、取引を行っています。

以前であれば、今よりも数がもっと少なかったため、

  • ワーカーは、自分に合う仕事を探すことができる
  • クライアントは、仕事に合うワーカーを探すことができる

と、多少使い勝手が悪くとも、探索コストが低く済む状態でした。

しかし、市場が厚みを獲得することで、市場に存在するワーカーと仕事が増えるため、探索コストが高まります。

ワーカーとしては「報酬を得ること」ことが目的です。仕事の探索コストが高まってしまうと、トータルなコスト(仕事をするために必要なあらゆるコスト=取引コスト)で見た際に、費用対効果が悪いように感じ、市場から離脱をしてしまいます。

2-3.混雑による「マッチング効率」の悪化

そして、もう1つ悩ましい問題が「一部の売り手(買い手)に、買い手(売り手)が集中し、マッチング効率が悪化する」ことです。

クラウドワークスであれば以下のような事象です。

  • 一部の人気の仕事に、ワーカーの応募が集中する
  • 一部の人気のワーカーに、スカウトが集中する

結果的に何が起こるかと言うと、ワーカー視点では以下の通りです。

  • 仕事の探索コストが高いことで
  • 他にも良い仕事があるにも関わらず
  • 一部の良い仕事しか見つけることができないので
  • その仕事に応募が集中することで契約倍率が高まり
  • 結果として契約を得ることができないワーカーが数多く発生し
  • そのまま離脱してしまう

2-4.情報の整理と見せ方で対策

市場の厚みを獲得した結果、混雑を引き起こしてしまい、クライアントやワーカーの離脱を促すような構造となってしまいます。

対策としては「情報の整理」と「情報の見せ方」です。

2-4-1.情報の整理

まず、「市場が厚みを獲得したことで、ワーカーや仕事が増え、探索コストが高まる」というのは 「市場に情報が無秩序に溢れてしまっている」と考えることができます。

したがって、まずはその情報を整理する必要があります。その整理を怠ると、上述のようなレモン市場に陥ったり、探索コストが高まったりします。

そして、情報の整理ができると、以下のような施策を打つことができます。

  • 高精度なキーワード検索
  • 条件フィルタリング
  • 協調フィルタリング

クラウドワークスでは、まだ全てに取り組むことができているわけではありませんが、「混雑」という課題に対しては「探索コストを押し下げる」ことは有効ではないでしょうか。

2-4-2.情報の見せ方

情報の整理をし、探索コストを押し下げることができると、ワーカー視点では、より素早く自分に合う仕事を見つけることができます。

しかし、これでは「一部の人気の仕事に、ワーカーの応募が集中する」という問題を解決できていません。

この問題を解決する際に、 重要なポイントは「ワーカーにとって価値の高い仕事とは何か」を明らかにすること です。

まず、仕事の価値の高低はワーカーによって異なるため、「仕事への応募」の原資となる「仕事の閲覧」に関係する「仕事一覧画面」では、各々の嗜好性を反映させた結果順に表示をさせたいところです。

次に、もう1つ重要なのは「ワーカーにとって、応募が集まっている仕事は価値が低減している」と考えることです。なぜなら、ワーカーの目的は「報酬を得ること」ことであり、応募が少ない、つまり契約倍率が低い仕事の方が、契約に至ることができる確率が高まり、その結果として報酬を得ることができるので、価値が高いと考えられます。

したがって、まとめると以下の通りです。

  • まずは「嗜好性」に合う仕事一覧画面を表示したい
  • 次に「契約倍率」といった条件をバランスさせる
  • その上で、仕事一覧画面の表示→閲覧→応募をワーカーにしてもらうことで
  • 「一部の人気の仕事に、ワーカーの応募が集中する」という問題の解決に近づける

クラウドワークスでは、仕事一覧画面の科学に取り組んでおり、試行錯誤を繰り返しています。

3.安心・安全な取引 〜悪用ユーザーとの闘い〜

3-1.安心・安全な取引とは?

市場が厚みを獲得し、混雑をしながらも拡大をしていくと、市場を悪用しようとするユーザーが現れます。

具体例は後述しますが、 取り締まりをせず悪用ユーザーが市場を跋扈してしまうと、市場で安心・安全な取引をすることがままならなく なり、真っ当なユーザーは市場を離脱してしまいます。

悪用ユーザーはあの手この手で市場に対するハックを仕掛けてくるため、運営者としても継続的な対応が必要となります。

3-2.安心・安全な取引とクラウドワークス

クラウドワークスの場合、クライアントが悪用ユーザーとして不正な仕事を投稿することです。不正な仕事とは具体的に以下の通りです。

  • MLMへの勧誘を目的としたもの
  • 自社メディアに誘導し、広告の誤クリックを誘うもの
  • その他、お仕事ガイドラインに違反するもの

クラウドワークスでは目視チェックでこういった不正な仕事への対処を行っていましたが、さすがに増え続ける不正な仕事に対して、人力での対処では追いつかなくなってしまいました。

そこで、メールのスパム判定に用いられる「ベイジアンフィルタ」を活用した検知システムの構築をすることで対策を講じました。

技術的な内容は専門では無いため割愛しますが、以下のような大きな成果を得ることができました。

  • 検出精度91%(当時)
  • 不正な仕事を最盛期の12%まで削減

具体的な内容を知りたい方は、ぜひ以下をご覧ください。

しかし、まだまだクラウドワークス上で不正な案件がユーザーの目に触れてしまっていることは事実で、あの手この手でハックを仕掛けられています。

わずかではあるものの、影響力を世の中に対して持ち始めた市場であるからこそ、ベースとして大事になるのは安心・安全に取引ができること。「ここまで対策すれば大丈夫だろう」という発想ではなく、継続的に粘り強くクラウドワークスでは取り組んでいます。

複雑さこそが「やりがい」であり「成長の伸び代」

「夜も眠れない3つの課題」と題して、以下3つの課題をクラウドワークスの文脈に乗せてお話ししました。

  • 市場の厚み
  • 混雑の解消
  • 安心・安全な取引

恐らく、マーケットプレイス型のプロダクトに取り組んでいる方であれば、共感していただける部分もあったかなと思います。

最後に、 これら3つの課題はお互いに密接に結びついており、状況変化に応じて、生き物のように動き続けています。

そのため、「現状がどうなっているのか」を把握するだけで一苦労です。そして、仮に把握できたとしても、互いが密接に結びついているため、「どこかを動かせば、どこかも動く」状態となっており、微妙なバランスを取るような打ち手を考えることも一苦労です。

しかし、この複雑さこそが運営者としてのやりがいであり、解決した際の大きな成長の伸び代に繋がると確信しています。

まだまだ未熟ではありますが「人々の働き方を変える」そんな世界を夢見て、真摯に運営を続けていきたいと思います。

長文となりましたが、ご覧いただきありがとうございました。
明日は@tmc28が「GASへの愛」を語ります。引き続きCrowdWorks Advent Calendar 2018をお楽しみください。

おまけ:マーケットプレイス型プロダクトの情報源

最後に、おまけとしてマーケットプレイス型プロダクトのことを調べる際に、参考とした情報源をまとめておきたいと思います。

他にもおすすめがありましたら、ぜひコメントください!&積極的に情報交換したいなと思っています。

書籍編

まずは、おすすめの書籍です。

Who Gets What (フー・ゲッツ・ホワット) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

このエントリで出てきた「夜も眠れない3つの課題」は、決して私が独自で考えたものではなく、マーケットデザインという分野で頻出するものです。このWho Gets Whatという書籍はノーベル経済学賞を受賞したロス氏による書籍で、現実の臓器移植や学校選択といった実例を引き合いに出しながら「マッチメイキング」という切り口で学ぶことができます。

最新プラットフォーム戦略 マッチメイカー

マーケットプレイス型プロダクトのモデルに関してかなり体系的に学ぶことができます。守破離の「守」、型を身につけるためにはもってこいの一冊だと思います。

プラットフォーム革命

「最新プラットフォーム戦略 マッチメイカー」と同じく、体系的に学べます。また、個人的には、書籍内で紹介されている「ネットワーク効果のはしご」という「いかにネットワーク効果を構築するか」といった考え方が非常に面白かったです。「ネットワーク効果」と言えば、以下の「資料編」でも紹介するような資料でもよく学ぶことができます。

資料編

次に、おすすめの資料です。

マーケットプレイス・ガイドブック

まさにガイドブックで、マーケットプレイス型プロダクトの指南書のような位置付けの資料。ビジネス的なノウハウも合わせて、学ぶことができます。

The Network Effects Bible

分かるようで分からないネットワーク効果に関して、非常に体系的にまとめられています。特に、「ネットワーク効果には13の種類ある」という整理の仕方は俊逸で、BEENEXTの前田ヒロ氏が日本語で参入障壁を生み出す「13種類のネットワーク効果」とまとめてくれています。

All about Network Effects

シリコンバレーを代表するVCの1つであるAndreessen Horowitzのネットワーク効果に関する資料です。FacebookやAirbnb、Mediumなどの企業事例に、どのようにネットワーク効果を構築したのかを学ぶことができます。

ブログ編

最後に、おすすめ記事です。

Work Hard!

フリル(現・ラクマ)の創業者である堀井翔太氏のブログです。非常に実践的かつリアルなノウハウを学ぶことができます。ちなみに、前田ヒロ氏のブログで公開された堀井氏のPodcastマーケットプレイスの立ち上げと拡大方法、そしてネットワーク効果の考え方。〜 Fablic 堀井 翔太は必見です。

Four Questions Every Marketplace Startup Should Be Able to Answer

Mediumに投稿されていたAirbnbのPMを勤めていたJonathan Golden氏の記事です。この記事では「ネットワーク効果には13の種類ある」という切り口とは別に「密度の高いネットワーク効果」と「グローバルなネットワーク効果」という観点での話が面白かったです。

また、Mediumではマーケットプレイス型プロダクトに関する記事がいくつもあり、以下はおすすめです。

Required reading for marketplace startups: The 20 best essays

最後に紹介するのは、Uberでグロースハッカーとして活躍し、現在はAndreessen Horowitzに所属しているAndrew Chen氏のブログです。上記でブログをいくつか紹介しましたが、ここで紹介されている記事を一旦読んでおけば間違いないかと思います。