"KPIマネジメント"を新規事業開発に適用してみる


はじめに

新規事業開発を担当するにあたり、KPIの設定やそれに到るまでのロジックを整理するためこの記事を書いてみました。
まずはKPIを策定するためのロジックを「最高の結果をだすKPIマネジメント」を参考書籍として整理した上で、現在直面している「Product-Market Fit (PMF)」フェーズに当てはめて考えてみました。

注)以下で出てくる定義や計算式などは、この記事に記載されている以外にも色々とあります。ただ、全てを記載しようとすると記載量が膨大となり、かつそもそも筆者の理解が追いついていないこともあるので予め取捨選択をさせてもらいました。

Product-Market Fit(PMF)とは?

今回は新規事業に対してKPIマネジメントを適用してみます。そこで、新規事業開発やスタートアップにおいて重要であるPFMの概念を記載します。

当然のことですが新規事業は、既存にないプロダクトやサービスをつくりそれをマーケットに提供します。この「プロダクト」が「マーケット」に受け入れられており、かつビジネスとして成り立っている状態がPFMです。(←自己解釈。より正確かつ具体的な内容はこの記事を参照してください)
なお、このPMFの前段階として「Problem-Solution Fit」があり、ここで顧客の課題とそれを解決するソリューションの検討をします。また、PMFの後はスケールフェーズとされており、本格的にプロダクトを成長させていく時期になります。
これを踏まえると、顧客に必要とされるソリューションとして十分であることはもちろんPMFフェーズではより経済的な観点をもって取り組むことが求められると言えます。

KPIマネジメントとは?

定義

参考書籍の定義によると「現在の事業にとっての最重要プロセスを明確にし(CSF)」「それをどの程度実行すると(KPI)」「事業計画が達成できるのか(KGI)」とされています。

具体例としては、こんな感じでしょうか。
- KGI: 期末の売上高をXXX億円とする
- CSF: そのために顧客へのアプローチを強化する。
- KPI: アプローチ数をXX件とする。

そして、このロジックに基づいて立案される各種施策がKPIの達成に向けて推進されているか、ある期間を通じてPDCAサイクルを回していくことをKPIマネジメントとしています。(なお、書籍中ではPDCAではなくPDDA(Plan-Decide-Do-See)とされています)

プロセス

今回はKPIの運用部分は割愛し、作成のプロセスのみを対象とします。以下の通りです。

  1. ゴール(定性的な表現)を定義する
  2. ゴールを定量化する(=KGI設定)
  3. 重要なプロセスを特定する(=CSF特定)
  4. CSFをどの程度推進するか指標値を設定する(=KPI設定)

KPIを作ってみる

1. ゴール(定性的な表現)を定義する。

新規事業の最終的なゴールは収益を生み出すようスケールさせることですが、PMFフェーズである現在は直近半年のゴールを以下とします。
「新規プロダクトがマーケット受け入れられていて、かつビジネスとして成り立つことの検証を完了する」

2. ゴールを定量化する(=KGI設定)

上記ゴールはプロダクトの経済性(収益とコストの関係性)を算出することで達成できます。
これは一般的に「ユニットエコノミクスが成り立つこと」とされており、以下の計算式で表せます。
(なお、今回はSaasビジネスを前提とします)

LTV ÷ CAC
*1 LTV: Life Time Value(顧客生涯価値)
*2 CAC: Customer Acquisition Cost(顧客獲得コスト)
つまり、「顧客が利用を開始してから離脱するまでどのぐらい使ってくれるか」を「顧客獲得時のコスト」で割って経済性をみるわけです。

ここでもっとも重要な作業に移りますが、このLTVもCACもある計算式から算出されるものです。この計算式をどんどん分解していくことで、各値がよりプリミティブになり施策との結びつけができるようになります。つまり、次のステップである「CSFの特定」を開始できる状態になるのです。それでは、このLTVとCACを分解してみます。(分解の細かい話は本記事最下部の「参考資料」をご覧ください)

①は、「Average Revenue per Customer」です。顧客ごとの収益の平均です。
②は、限界利益率です。
③は、離脱率です。Churn Rateと呼ばれます。
CACは、顧客獲得に費やしたコストを新規顧客で割ることにより算出します。

ここまで分解すると、なんとなく今期のゴール(マーケットに受け入れられていて、ビジネスとして成り立つことの検証)を達成するための重要なキー(CSF)が見えてきます。
つまり、この計算式を妥当なものであると主張するためには①と③の算出をより多くの母数をもっておこなうことが重要になってくると考えられます。

3. 重要なプロセスを特定する(=CSF特定)

上述の通り、検証を完了したというためにはそれなりの精度をもった算出結果を出す必要があります。特に、顧客ごとに大きく異なるであろう収益の平均や、離脱率を正確に測るためには多くの顧客に利用してもらうことがキーになってきます。
そして顧客の獲得がキーであるとわかったら、さらにそれを分解します。

顧客の獲得↑ = アプローチ顧客数↑ × CVR(コンバージョン率)↑

よって、CSFは「アプローチ顧客数を増やす」and/or「コンバージョン率をあげる」となります。
あとはCSFの選択に当たっては、制約事項も考慮する必要があります。例えば、「アプローチ顧客数を増やす」は当然営業の人員の確保、もしくは営業一人当たりの稼働時間を延ばすことになるのでそれを実現できるのか検討が必要です。

4. CSFをどの程度推進するか指標値を設定する(=KPI設定)

CSFの特定までできれば、あとはどの程度できればよいのかを検討します。
つまり、どの程度の顧客を得ることでLTVの算出の精度を高めたと言えるかを検討します。
例) XXX件の顧客にアプローチをする。など

おわりに

上記で紹介した各種値(LTVやCAC)は、業界やプロダクトの特性、またはそれが対象としているマーケットの状況などにより可変です。(と理解しています)
そのため、本記事の内容はあくまでも参考程度に受け取ってもらえればと思います。とはいえ、明らかに改善点と考えられる箇所があればフィードバックをいただけると嬉しいです。

そして、この整理をもとに事業がどんな感じになったかは改めて更新しようと思います。

参考資料

CAC、LTVの説明
限界利益率の説明
ChurnRateの説明