AIが世界を変えるためには、投資家も変わらなければいけません


この投稿はNode.ioのCEO兼創業者であるFalon Fatemi氏が2020年3月13日フォーブスに掲載した原稿を翻訳したものです。Element AIで働きながら投資、パートナーシップなどを議論したり同僚と話しながら感じたことがよくまとめられており、原作者に許可を得て翻訳、投稿しました。もちろん、個人的にも‘SaaSとAI-ファーストは必ず対比される概念なのか’や、‘Node.aiが何だかんだHorizontal platformに近い会社であるということが原作者の考えと原稿にどうしても反映されたのではないか’また、‘Andreessen HorowitzのAI企業に対する一般的認識(これは以下投稿文から確認できます)に全面的に同意することは難しいのではないか’という疑問はありますが、批判的に読みながら参考する部分があると思います。

原文はここから確認してください。

そんな遠い未来ではなく、たったの50年前だけでも交換員という職業の人々が直接交換機を操作して電話を繋げたということが信じがたいと仰る方々が多いと思います。
規模のある運営をするためには数多くの人々の手を借りなければいけなかったことが、マイクロプロセッサーで動作するコンピューターにより早く代替されるようになりました。今は他の誰かと電話で話をするために途中で誰かの操作が必要だということ自体を想像しがたくなりました。

‘データサイエンス’という領域もこれらと似ているプロセスを経ています。データから予測を導出する数学的ツールは過去数世紀、またそのためのアルゴリズムも過去数十年間存在してましたが、入力データの管理、出力データの解釈またこの過程を繰り返すプロセスを進めて管理するには毎回人間の操作が必要でした。

Artificial Intelligence(AI)はこの全ての状況を変化させることができる潜在力を持っています。以前は数ヶ月を経て、そして数回人間の操作を通じて結果を確認することができた予測値の生成プロセスを、AIという、実質自動的に運営される強力な技術が処理することができます。これにより、多くの革新的企業がこの技術の巨大なる潜在力を理解しており、 AI中心の運営モデルに移行しようとする働きを見せております。

Mark Cuban氏はAIの独歩的な影響力を予想した数多くの投資家の内の1人です。彼は"パソコンもインターネットも大きな影響力があったが、AIはそれらを貧弱に思えるように見せるほど大きな影響力があるだろう。これが理解できなければ、あなたは時代後れとなる - 特に、もしあなたが事業を経営しているならば"と述べたことがあります。実際、AIが次の世紀の内、全世界経済におよそ13兆ドルの価値を加えるというMarkの予測を支持する強力な証拠があります。

ベンチャーキャピタルの認知的不協和

AIがもたらすと信じている機会のその莫大な規模にもかかわらず、現在利用可能なツールがまだ未熟な状態だとか、研究者のような特殊な人材が必要だとか、そして-おそらくこれが最も重要な要素であると思いますが-企業のデータ管理戦略を再検討しなければならないなどの理由でAIの導入速度はあまりにも遅いです。AIの導入を加速化し、全てのビジネスにAIシステムを配置するに必要な時間と資本を削減するためには、新たなイノベーションが必要となります。

AI導入速度が遅れる主な理由うちの一つは、AI-ファースト企業を作るということが意味する現実と、ベンチャーキャピタルの一般的な規準の間のギャップと言えます。具体的に説明しますと、AI企業は伝統的なSaaS企業に比べて3〜6倍以上の大規模の先投資が必要となる代わりに3〜6倍以上の大規模の市場機会を狙えられるという違いがあり、だからこそより意味のある商業的動力を生み出すためにもっと長い時間が必要となります-事業の概念から始めて実際に動作するプロトタイプを作り出すまで少なくとも1千万ドル規模の投資と5〜6年ほどの時間が必要であり、商業的に有意義な結果をもたらすまでには約10年ほどかかると思えます。ほとんどのベンチャーキャピタルファンドが大体7年ほどの時間を予想して動いているので、そういう意味では彼らにあまり嬉しいニュースではないでしょう。

AI専門のベンチャーキャピタルファンドが多く立ち上がりましたが、投資家は相変わらずAI-ファースト企業を評価する際、SaaS企業のマルチプルズ(multiples)を基準としています。ビッグデータ分析企業として、すでにユニコーン企業となったSisenseのCEO、Amir Orad氏は、この傾向が極めて望ましくないと考えている数あるAI創業者のうちの一人です。 Amir氏は私に"ベンチャーキャピタルが収益を上げる方式に比べて、時間に関する問題があります。 ひたすら研究開発をするだけでも5〜6年がかかり、それ以降になってやっとAIのプロトタイプが作れるとしたら、典型的なベンチャーキャピタルの構造としては受け入れがたいでしょう"と言ったことがあります。

AI企業をSaaS企業と比べると、似たような"ファンディングシリーズ"の段階で似たような結果を出すことを期待するのは難しいと述べましたが、以下の表に記載されている大まかなファンディング規模、マイルストーン、そしてARR(Annual Recurring Revenue)の数字が、典型的なSaaSアプリケーションとAI-ファーストプラットフォームを作る企業の現実的な相違をはっきりと見せていると言えます。簡単に言うと、これから投資家たちが、実なるAI-ファースト会社だと信じれば、その会社に対する投資条件や期待水準を再定義してアプローチしてからこそ、その会社を通じた大規模なイノベーション(transformational innovation)が可能になるという話です。

ベンチャーキャピタルAndreessen HorowitzのパートナーであるMartin Casado氏とMattBornstein氏も最近の投稿でAI-ファースト企業と伝統的なソフトウェア企業の間の違いについて再度指摘したことがあります。 この二人のパートナーの経験によりますと、比較的に低い売上総利益(Gross Margin:比較対象のSaaS企業における売上総利益が通常60〜80%であれば、AI企業の売上総利益は50〜60%程度)、規模拡大の難しさ、AIモデルがcommidity化とともに差別的競争力を維持することが難しくなる部分、そしてIP(知的財産権)が顧客の所有(全体または一部でも)となりやすいため、AIソリューションの全般的な適用範囲と可能性が制限される可能性がある部分などからすると、AI企業を伝統的なソフトウェア企業と同一基準での比較は難しいと述べております。このような理由に加え、今AIソリューションを運営するために必要な持続的な人力と変動費などを考慮すると、AI-ファースト企業の財務的指標は-少なくともその企業の初期には-むしろサービス企業と似たような側面があるということです。

AIが企業の既存の形態を破壊しうる何かと言われてはいますが、いざ企業でのAI導入の現状は凄惨な状況です。これは絶対的に企業のAI導入の意志や熱望が弱いからではありません。 大抵の企業を見てみると、AIの持つ潜在力のほどんどがデータにかかっていること-データがどこにあり、どのように取りまとめ、標準化し、データを処理して洞察を導くことのできるデータアーキテクチャを構築するのか-について、まともに理解できておりません。Element AI(最高レベルのAI人材たちが集まり開発したReady-to-Implement AIプラットフォームと製品を提供する)のCEOであるJean-Francois Gagne氏も"市場自体がまだアーリーアダプターの状態であり、ほとんどの組織ではどこにデータがあるのか把握しきれていないだけではなく、AIを開発、運営するために必要なインフラをきちんと整えていない"と私に言ったことがあります。

AIハイプ(hype)と現実の間のギャップは実際にとても大きく、このギャップは企業がAI中心の、AIのためのデータ戦略を作るまでは縮まりづらいでしょう。データを取りまとめるというこの中核的な作業には、当企業の内部データ、アプリケーションデータを外部企業、パートナー、顧客など周辺のエコシステムから作られるデータと融合する過程が必要となります。まだEnd-to-Endで必要なデータを選択することから実際のAIモデルを利用した予測まで処理してくれるツールが市場に全くないので、結局これはAI-ファーストスタートアップがデータを取り扱うことにまで踏み込まなければいけないということです。AI-ファースト企業は結局、必然的に市場がより成熟するまでには顧客企業を直接導きながら彼らが希望するソリューションを作るためにより多くの資金を集めなければならないのです。

時々見過ごされる"Horizontal"AI企業の潜在力

本格的なAI-ファースト企業に投資する代わりに、投資家たちは"類似AI企業"により惹かれているようです。‘AI要素を足した’と主張する、特定産業のワークフローを改善するソリューションを提供するSaaS企業だとか、究極的には企業向けAIソリューションシスイートを構築するという‘長期的’目標を持って人材確保を続ける企業がその対象です。 もしかすると、この2つの種類から外れる事業者は、必要なだけの資金を確保するのに苦労していると思います-それにより、AIを活用した本格的なイノベーションを、私たちも近いうちに目にするのも難しくなるでしょう。

Horizontal AI企業は特にその未来が期待できる企業ですが、それでもベンチャーキャピタリストたちが特定産業に集中するSaaSソリューション企業に投資することに慣れているため、時々見過ごされる対象でもあります。Horizontal AI企業は、一般企業の顧客が内部的にAIという技術の力を活用するのに必要なDNAを自主的に構築しなくても、多様なAIユースケースを効果的に作り、運営できるようにサポートします。これらのオファリングが市場に受け入れられるには、どうしても時間がもっとかかりますが、HorizontalAI企業はAIの導入自体を加速できる、ゲームチェンジャーになる潜在力のある企業たちです。 私は最近、以前Accenture Ventures and Open Innovationを共同で設立したマネージングディレクターであり、現在はH3VC(Horizon 3 Venture Capital)の創業メンバーであり又GMであるJitendra Kavathekar氏と話す機会がありました。Jitendra氏はHorizontal AI企業の潜在力についてこのように強調しました:

"デジタルトランスフォーメーションが‘成長’の達成、‘効率性’の向上という目標をすべて達成するには、データ基盤の知能的力量を基に、企業の全領域にかけての運営及び意思決定方式のすべてを革新しなければなりません。この過程の流れで組織内に分離されている各種機能を連結しながら、多様なデータを活用した洞察(Insights)を引き出す知能的連結輪、すなわちHorizontalAIが決定的な役割を果たすことができます。 一つの組織から発見された知識と洞察を他の組織に適用することで、その効果を倍とさせることを望む企業にとっては、HorizontalAIは非常に新鮮で興味深い要素です。さらにもう一歩進めて、自ら様々な機能的組織と業務を見ながら、新しい知識と洞察を見つけ出し、定義する新しい種類の人材がいると考えてみると、これがまさに根本的な段階から起きるイノベーションの姿だと言えます。このように水平的でありながらも動的に起きるデジタルトランスフォーメーションは、将来にはかなりの価値を生み出すでしょうが、ただ、これが可能になるためには、相当な規模の外部サービスとコンサルティングなどの補完的手段が必要となるでしょう。 大手サービスの事業者、そしてコンサルティング事業者は、そのような観点からすると企業の顧客を対象にプラットフォームとサービスを組み合わせたアプローチを通じて、デジタルトランスフォーメーションの全般的なプロセスに置いて、初期に価値を提供できる非常に良い状況にあると考えます。"

Horizontal AI企業がその潜在力を発現するために必要な資金を確保するためには、ベンチャーキャピタリストたちがAI-ファースト企業が資金不足問題を抱えている時に、時期の早い資金回収をするより、将来性のあるAI-ファースト企業が偉大なるイノベーションを生み出せるサービスとソリューションを構築できるように奨励するためにも、ベンチャーキャピタル業界における‘投資及び回収’の概念に関する思考の転換が必要となります。 Jean-Francois Gagne氏はこれを誰よりも先に直接感じた人でしょう。 Jean-Francois氏は私に"私は深刻な資金確保難を直接経験し、結局、当初AIを利用していろんなことをやってみると述べた自分たちの本来の目標を維持できないまま、事業モデルやオファリングを変更するスタートアップを実際にたくさん見て来ました"と語りました。私たちの目の前に置かされたものすごい市場機会、そして良いAIサービスや製品を作るために実際に要求される時間などを考慮すると、このような現象-AI-ファースト企業をSaaSマルチプル基準で評価すること-は技術的進歩の観点からするとあまり望ましくない現象であり、ある意味ではナンセンスまでと言えるでしょう。

"ビジネス問題"を解決するということ。

AIの導入を妨げるもう一つの問題は、AI企業が掲げる‘価値提言(Value Propositions)’と関わりがあります。特に、ほとんどの企業が解決しようとしている‘問題’自体に集中するよりは、AI技術が使われる‘ソリューション’自体を知らせるのに力を入れています。 KyndiというAI企業の創業者であるRyan Welsh氏によると、ほとんどの企業顧客が自分たちにどのような問題があるかを知らない場合が多いので、このようなアプローチ方法の転換-‘ソリューション’から‘問題’への-が重要だということです。例えば、ある企業で90日間手作業でドキュメントを検討する業務を行う100人の作業を、機械1台で90分で行えるAIソリューションがあるとしましょう。Welsh氏は、"革新的な技術が直面する最大の課題は、すなわちその技術が解決できる問題が、人々が常に認知している問題ではないという点です。人々はそれが問題なのかすら気づいていません。100人が手作業で90日間ドキュメントを読む業務プロセスが30年間に渡り続いてきたからです。それで、あなたがそこに行って、100人が90日間ドキュメントを読んでいる代わりに、1台の機械でたったの90分で同じ作業ができるということを示す前までには、それが問題だと考える人がいないということです。なので、私達は‘ソリューション’ではなく‘問題’が何なのかを話さなければなりません。人々が自分たちの働き方と構造に根本的な問題があるということを理解するようになると、その時こそがまさに私たちが‘ソリューション’を語ることができる時です。"

これもまた、AIソリューションのセールスサイクルがさらに長くなり、新しい機会の市場を開く可能性のある実のAI-ファースト企業がより大規模な資本が必要とする理由となります。

AI公害

泣き面に蜂の状況で、AI-ファースト企業はまた、"一体AIとは何か"という市場の曖昧な認識問題と闘っております。 私たちはSisenseのCEO、Amir氏が作り出した用語‘AI公害(AI Pollution)’のほぼ最高潮の状況、市場もメディアも何がまともなAIであり、何が違うのかについて明確に分かっていない状態に到達しています。 ".ai"ドメインがいろんな所から現れ、事実上すべての技術企業たちが自社のマーケティング戦略の中心にAIを置いています。その企業が本当にAI技術を活用しているかどうかは重要なことではありません。 経験豊かな投資者さえ隅々まで把握して選り分けることが難しい状況です。

したがって、AIの潜在力を実現するプロセスにおいて、必ず必要であり重要な段階がAIが何であり、どのようなものがAIではないのかということに対するとても明確で具体的な教育と学習です。成長段階の技術企業に投資するVCであるSapphire VenturesのJai Das氏は、"誰とでもAIについて話すとき、何がAIで何が違うのか、その具体的な内容が何なのかを基準とする標準的な定義がありません。何かを定義する共通の方法がない状態では、意味のある具体的な話を交わすことはとても難しいでしょう。"と述べたことがあります。

自然語処理、マシンラーニング技術を基に大手企業のマーケティング、営業、サービスなどの領域で使われる言語の選択を効果的にできるようにサポートする会社であるPersadoのCEO、Alex Vratskides氏もこのような評価に同意すると言いしながら、私にこう述べました:

"AIという用語自体がこれまで誤用されてきました。 ほとんどの学者たちは私たちが今話しているAIがAIではなく何か違うものだと言うでしょう。 他のすべてのトレンドの場合のように、シリコンバレーが再びまた一つの用語に飛び込んでその実体が作られる前にも活用してしまったのです。誰でもクラスタリングアルゴリズムを持っていれば、自分もAIだと主張します。"

まとめ

ほぼ狂的なレベルのマーケティングの波にもかかわらず、AIはまだ非常に初期段階にいます。企業市場の場合には、おそらくAIを多くの手作業とサポートするサービスなしで広い範囲に導入できる状態になるためにはこれからもう数年はかかるでしょう。しかし、AI技術とソリューションの開発、そして投資を縮小しなければならないという意味ではありません。むしろ、本当に実なるAI-ファースト企業のために投資の概念と構造を調整し、Horizontal AIプラットフォームの価値-一般的な特定産業用ソリューションよりはるかに多いROIと市場機会を作り出せる-をきちんと認識しなければなりません。また、AIをよく理解するための共通の言語に合意することにより、AIという用語自体が、特にマーケティングの欲張りとして誤用·乱用されず、お互いに意味のある知的な議論を進められるようにしなければなりません。このプロセスで、真に革新的なAI-ファースト企業が必要とする資金とサポートを受け、次世代のための巨大な変化を起こすことのできる技術が開発されることを目にすることができるでしょう。