エンジニアリングマネージャのリーダーシップ


こちらの記事は Engineering Manager Advent Calendar 2021 の23日目の記事になります!

はじめに

自己紹介

現在は開発ディレクター/スクラムマスターをしていまして、過去には開発責任者やエンジニアリングマネージャをしていました。
最近は技術広報の推進もしていまして、カケハシのアドベントカレンダーもやっております。
プロダクト開発の技術に関わっている組織づくりや開発プロセスづくりなど広く関わっていっております。

エンジニアリングマネージャとリーダーシップ

エンジニアリングマネージャはいくつものことをやる必要があります。

  • プロダクトマネジメント
  • プロジェクトマネジメント
  • ピープルマネジメント
  • テクノロジーマネジメント

チームやプロジェクトやメンバーの状況によって必要なリーダーシップを変化しながら進める必要があります。

まず、リーダーとマネージャややるべきゴールが違います。
リーダーは先陣を切って進み、みんなの新しい道を切り開きながら背中を見せるようなポジションです。
マネージャはマネジメントしているものを良い感じにすることです。リーディングが必ずしも必要なく、最終的には自動的にマネジメントされることが最小コストであり最大効果であると思います。

エンジニアリングマネージャはプロダクトやシステム、チームが上手くいくことに責任を持ち、必要があればリーディング力を発揮しながらマネージしていくことが求められます。

チーム組成から始める場合は自ら文化のベースとなる設計する必要があり、メンバーも集めます。
既存のチームのエンジニアリングマネージャになる場合は変革を起こすべきか、サポートに回りながら動くべきかなど、期待されるリーダーシップの発揮方法が違います。

変革型リーダーが得意な人や安定したチームをサポートしていくことが得意なリーダーなど、リーダーの性格や能力の得意不得意も様々になります。
今回はいくつかのリーダーシップについて書いていこうと思いますので、自分にあったリーダーシップを探しながら読んで頂けると嬉しいかと思います。

リーダーシップ理論

SL理論 (Situational Leadership:状況対応型リーダーシップ)

SL理論ではチームのメンバーの能力やタスク型に合わせて以下の4つの型を定義しています。

それぞれの型は以下のような状態になります。

S1「指示型」

リーダーは具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく確認します。
個人の習熟度が低い状態で、仕事に必要なスキルをすべて満たしていない状態。
仕事には熱心に向き合って取り組む初心者の状態です。

S2「コーチ型」

リーダーは引き続き指示を伝えて仕事の達成を細かくするが、決定されたことも説明しながら提案を出してもらいながら前進するように援助します。
習熟度が上がりより多くの仕事をこなしていおり、仕事には意欲的な状態です。

S3「援助型」

リーダーは仕事の達成に向かって努力を促しながら援助し、意思決定に関する責任をメンバーと一緒に進めます。
さらに経験を積んで多くの仕事を実行できるが、まだ全ての責任を負う自信や意思がない状態です。

S4「委任型」

リーダーは意思決定と問題解決の責任をメンバーに任せます。
個人で自立できており、自分の能力を十分に発揮することに満足している状態。
仕事に対して責任を負いながら進めることに喜びを感じている状態です。

EMPOWERMENT

(上記の本はSL理論を提言した1人であるケン・ブランチャードの著書の本になります)

4つの型があるのはメンバーにいきなり任せようとしても無理なことがあるからです。

  • 1つめはマインドや文化、環境面
  • 2つめはスキル的な能力面

1つめのマインドや文化、環境面では
改善や変化を起こすチーム文化が無い中で、改善の変化を起こしたり課題を見つけて提案することは非常に難しいです。
気づくということは様々な課題にアンテナを張っている必要があります。人は慣れてしまうと課題を課題と感じなくなってしまうからです。
そして、提案するということはチームメンバーを信用することが必要になります。心理的安全性を作る必要があります。

2つめのスキルや能力面では
テクノロジーマネジメント面で任せてリードするにはそれなりに技術力を高めなければなりませんし、
プロジェクトマネジメント面を任せようとすれば、必要な観点やスケジュールやスコープの管理方法、スクラムなどの知識や理解が必要になります。
他のマネジメントも同じようにスキルや知識を磨く必要があります。
責任を果たす能力を得るためには技術力だけでは推進が出来ないのです。

メンバーの成長に合わせながらリーダーとして関わり方を変化させて行くと良いと考えています。

エラスティックリーダーシップ

チームのメンバーの能力面などもありますが、会社の事業の状況などによりプロジェクトの状況が変化します。
そのときにざまざまなモードを切り替える必要があります。

エラスティックリーダーシップ - 自己組織化チームの育て方

エラスティックリーダーシップの本の中では3つのリーダーシップのモードについて書かれています。

  • サバイバルモード
  • 学習モード
  • 自己組織化モード

エラスティックリーダーシップとは、この3つの状態に合わせて柔軟にリーダーシップスタイルを変化させるアプローチです。

「エラスティック」とは「伸縮自在の」という意味があります。
パブリッククラウドのサービスを使っているとたまに聞く単語かなと思います。

それでは3つのモードについてです。

サバイバルモード

サバイバルモードのリーダーシップを行うときは、チームにゆとり時間がなくスケジュールなどが厳しい状態。チームに学ぶ時間が十分にない状態です。

この状態の時のリーダーシップスタイルは「指揮統制」になります。リーダー自らが判断し、メンバーに指示するスタイルです。
サバイバルフェーズの状態は、時間がなく思考停止のように目の前のことに没頭して作業を進めている状況だったりします。目の前のタスクが高速で片付いていくことから、メンバーはこのような状態で中毒になっている場合もあります。
これらの文化を大きく変えるために強い指揮統制をしてチームに行動変化を起こしていく必要があります。

リーダーとしての目標は、ゆとりの時間を作り出しなるべく早くこのサバイバルの抜けることを目的としています。

学習モード

学習モードのリーダーシップを行うときには、チームがゆとり時間を持ち、学習や検証を行い新しいスキルや知識を得ながら業務を進める時間を取れる状態です。

この状態でリーダーシップスタイルは「コーチ」スタイルになります。チームメンバーが自分たちの問題を自力で解決できるように教え、挑戦させることです。
学習フェーズでは様々なチャレンジを行うため失敗も多く発生しますが、誤りを許容し、様々なことを委任していきます。
学習して成長していく過程では、一時的にパフォーマンスが落ちるタイミングもありますが、それを許容しながらチームとしての成長を目指します。

リーダーとしての目標は、自己組織化チームへと育てることを目的とします。

自己組織化モード

自己組織化モードのリーダーシップを行うときには、もはやリーダーは何もしなくても大丈夫な状態です。
チームはリーダーの助けなしに自分たちの問題を解決していける優れた状態です。
リーダーはさらなるチームの発展のため様々な実験やチームをさらに発展させるために時間を使うことが出来ます。

この状態でリーダーシップスタイルは「ファシリテーター」スタイルになります。チームメンバーは自分たちで意思決定を行うことができ、衝突が発生しても内部で解決能力を持ちます。
。チームの運営はチームメンバー自体が行うことになります。リーダーはメンバーが設定した目標を達成する支援者として参加します。この状態になると、もはやリーダーは不要になる可能性もあります。

エラスティックリーダーシップはチームをこの自己組織化フェーズまでチームを成長させることが期待されます。

山本五十六の教育における4段階法

山本五十六の名言の1つとして 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」があります。

どのように期待通りに動いてもらい、成長を促すことが出来るのか。
そのときに活用が出来る1つの考えかと思います。

抽出するとこの4つの行動のステップを踏むことです。

  • やってみせる
  • 言って聞かせる
  • させてみる
  • 褒める

やってみせる

なにかやって欲しいことがあるならば、まずはリーダーが積極的にその姿を見せるべきです。

例えば「キリン」を見たことがない人が「キリン」を描こうとしたときに、描くことが出来るでしょうか?
「麒麟」になってしまうことが遥か昔に証明されています。

まずはどうやって欲しいのか見せることでゴールの理解をしてもらいます。

言って聞かせる

次にはどのようにやるかを説明することです。
どのような状況で、どのようにやると良いか。
これをやっているときに前工程や後工程を考えながら進めることなど、
どのようなことに意識して進めると良いのか、現在やったことだけでなく、意図や時間軸、観点なども伝えることです。

させてみる

そして、出来るようになるには小さくでもやってみることです。
失敗する前提でリスクヘッジをしながらもやっていくことです。
野球やサッカーなどもマニュアルをどんなに読み込んで読破しても、野球やサッカーのプレイをしなければ上手くはなりません。

理論や観点は重要ですが、やってみることで見つけることや練習で身につくことが一番大切です。

褒める

新しいことを始めるときは失敗はつきものです。
とはいえ全てが駄目ということもないでしょう。
何が良くて何がだめなのかを伝えることで1つずつ良いことを覚えていきます。
そして、ダメなところを詰められていると成長行動を続けられません。
褒めることでモチベーションを引き出し、チャレンジと成長の行動が起きるのだと思います。

名言の続き

実はこの名言には、まだ続きがあります。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」
「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

人の成長に関わるスタンスとしてこの短文に沢山詰め込まれていて、勉強になる観点だと思いました!

デリゲーションポーカー



メンバーに様々なことを権限移譲し、任せていくことが大切です。
そのときに必要なことが移譲することのレベルを擦り合わせておくことです。

重要なことは任せる本人の能力と意欲の両面で任せる度合いを変えることです。

1番大切なことは相手と認識が擦り合っていることです。
そのときに使えるのがデリゲーションポーカーです!

デリゲーションポーカーは移譲の段階が書かれており、マネージャとメンバーがそれぞれの数値を出して、移譲の期待や認識を合わせていくものです。

どちらの数字もあっているときは問題なく、2人の数字がずれているときに認識を合わせる必要があります。
認識のズレを見つけることが出来る便利なツールなので、ぜひ1度やってみると良いと思います!

あっていないパターンは大きく2つです。

  • マネージャがまだ任せられないと思っているが、メンバーは任せて欲しい
  • メンバーはまだ責任が重いと思っているが、マネージャはもっと任せたい

任される側がもっと任せて自由にやらせて欲しいのに、任せられないことはフラストレーションになります。
また、マネージャが期待しているのに、思ったように報告や責任が果たされていないと感じることもあります。

どちらの状態も移譲の期待への認識が擦り合っていないことが問題です。

最初はデリゲーションポーカーを使うと仕事っぽくならずにゲーム的に進めることが出来るので楽しいと思います!
慣れてきたならばスプレッドシードなどで管理しながら認識合わせが出来ると思います。

デリゲーションポーカーを使って認識のズレを解消し、お互いに成長と期待が良い状態を目指していきましょう!

まとめ

リーダーシップには固定化した正解はないかと思います。
私も様々なフェーズのチームでのマネジメントを求められる立場で入ったことがあります。

全く何もない状態からのチーム組成もあります。
チームの状況によっては積極的に介入する必要があります。
そして、チームにとって自分が不要な場合もありました。

マネージャの行うリーダーシップは状況、環境、人に向かい合いながら様々に変化する必要があります。
マネージャとしての最終的なゴールは「自分がいなくてもチームが自己組織的に動けるようになること」と考えています。
つまり、自分が不要になる状況を作り、マネージャーは次の価値を作りに新たな組織の変革の取り組みに飛び込んで行くことだと思っています。

様々なリーダーシップを駆使しながら、一緒にどんどんと自己組織化したチームが作って行きましょう!

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