エンジニアが知っておくべき悪魔的説得手法


はじめに

エンジニアとして働いていると、社内およびクライアントから理不尽な要求を突きつけられることは珍しくないと思います。その際の対応に非常に役に立った本があったので概要をサマってみました。以下のような悩みを抱えているエンジニアの方に役立つと思います。
参考図書:プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く

《常駐エンジニア》

  • 要件定義:クライアントの要求が抽象的且つ発散していてシステム方針を定められない
  • 設計:クライアントの要求が二転三転し、いつまで経っても仕様を固められない
  • テスト:設計時には出てこなかった要求がテストを機に突然噴出し、コストが跳ね上がってしまう
  • QA:こちらの説明にクライアントが納得してくれず、何度もQAが繰り返される

《社内エンジニア》

  • 企画:ユーザ部門のヒアリングをしても議論が発散するばかりで意見がちっともまとまらない
  • 企画承認:役員がこちらの説明を理解できず、何度も企画案を取り下げられる
  • 設計:外部ベンダーにこちらの要求がちっとも伝わらない
  • テスト:テスト時にユーザ部門から今まで出てこなかった要求が突然噴出する

目次

  • プロパガンダとは
  • 説得力を増すためのアプローチ
  • 説得のされ方
  • 説得方法あれこれ
  • まとめ

プロパガンダとは

"プロパガンダ"といったら大仰な印象を受けますが、簡単にいうと"説得"と同じ意味です。企業活動では主に営業の方が行うことが多いと思いますが、今後はエンジニアにも価値提供の一環としてクライアントの説得が期待されるようになるでしょう。

プロパガンダは、特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為である。...(中略)...あらゆる宣伝や広告、広報活動、政治活動はプロパガンダに含まれ...(中略)...コーポレートプロパガンダ(企業プロパガンダ)は、企業がその活動やブランドイメージに関する市場・消費者意見を操作するために行なうプロパガンダの一種である。特定の人間がその企業の製品やサービスに対して支持を表明する事で、社会における好意的な印象形成に影響をもたらす。...(中略)...企業プロパガンダは一般的に、婉曲的な表現として広告、広報もしくはPRとも呼ばれている。 [wikipediaより抜粋]

wikipediaにも書いてある通り、企業の広報・PR活動もプロパガンダ(=説得)の一種です。以下の節では、どのように議論を自分の持っていきたい落とし所に落とすか(=相手を説得するか)を説明します。

説得力を増すためのアプローチ

説得力を増すためのアプローチは2種類存在します。

  • 学習理論アプローチ
  • 認知的アプローチ

アプローチ①:学習理論アプローチ

こちら側のメッセージを相手に学習してもらい、相手がメッセージを受け入れることで説得するアプローチです。以下のステップで説得が行われます。後述する認知的アプローチと比較すると論理的な方法論です。エンジニアはロジカル思考が得意なため、こちらの方法論を利用した方が説得の確度が高いと考えられます。

  • 相手がこちらの説得に注目する
  • 相手が説得を理解する
  • 相手が説得を学習する
  • 相手が説得を記憶する
  • 相手が説得をもとに行動する

万一あなたがクライアントや社内の関連部門を説得できないのはこのステップの中のどれかが達成されていないことが原因です。

例えば、以下のようなケースを考えてみます。

ケース1:相手があなたの説得に注目していない

  • 原因として考えられるのは「相手の興味関心が他に向いている」こと
  • 対策は「相手の興味関心がある話題と自分のトピックをリンクさせる」こと
  • 相手の興味関心とこちらのトピックを紐づける(さらには、説得を受け入れることで相手の興味関心がある課題が解決する)ように説得すれば、注目してもらえる確率が上がる

次に、以下のようなケースを考えてみます。

ケース2:相手があなたの説得を理解していない

  • 原因として考えられるのは「こちらの説明に相手の理解が追いついていない」こと
  • 対策は「大事なポイントに絞って説明し、細かなメカニズムの説明は省略する」こと
  • 細かいメカニズムの話をしても大抵の人は理解できないので、正確に事実を伝えるための資料は別に用意し、伝えたいポイントだけをわかりやすく説明する

このように、説得がどのステップで失敗したのかを分析し、対策を練ることで説得の成功率が上昇します。

アプローチ②:認知的アプローチ

相手の感情に訴えかける方法論です。相手があなたに好印象を持つように、且つあなたに否定的な印象を持たないように説得するアプローチです。こちらは一般的に意識される典型的な営業方法だと思います。例を挙げると「自分に親近感を持ってもらい、説得を有利にする」などです。他との差別化が難しい商品の説得などに有利に働きます。認知的アプローチは論理的に体系立てて整理されていないため、数々のユースケース(過去の事例)を学習し、体得する方が良いでしょう。(詳しくは参考図書参照)

説得のされ方

先ほどまでは「説得する側」のアプローチを2つ紹介しましたが、今度は「説得される側」がどのようなメカニズムで説得されるのかを説明します。説得されるメカニズムは2種類存在します。

  • 本質による説得
  • 表層による説得

説得のされ方①:本質による説得

相手はあなたの説得を受け入れた場合のメリット・デメリットを慎重に考えます。そして、以下のような反応をすることで判断材料を集め、説得の本質を見極めようとします。本質が見極められ、且つメリットの方が大きいと判断した場合は、相手はあなたの説得を受け入れてくれるでしょう。

  • あなたからの説得に対して反論を述べて反応を見る
  • あなたに質問をして回答を求める
  • あなたに対して新たな情報を求める

この場合は、あなたが相手の疑問や不安にどれだけ真摯に回答できるかが説得成否のカギになります。

説得のされ方②:表層による説得

この場合、相手はあなたの説得内容にはあまり関心を示しません。以下によって説得されます。

  • あなたの個人的な魅力
  • 周りの人々の反応(他の人がどうしているか)
  • 説得を受け入れることに伴う快楽や苦痛(自尊心が満たされるなど)

説得方法あれこれ

過去の先人が行ってきた説得方法を学習し、応用することで説得を非常に有利に進めることができます(詳細は参考図書参照)。

  • あなたに有利なように問題を定義する
  • 相手の「常識」を利用する
  • 質問をすることで相手の認識を整理する
  • 対比構造を利用し、問題を理解しやすくする
  • 社会的信用の高い人のイメージを説得に利用する
  • あなたに不利になる、且つ相手に有利になるように行動する
  • 少数でも良いので詳細で具体的なデータで説得する
  • 何度も同じメッセージを発信する

まとめ

エンジニアはどうしてもコミュニケーションに対して苦手意識を持っている人(私を含め)が多いと思います。一方、ロジカルに説明されれば理解できる論理的思考力を持ち合わせている方も非常に多いことも事実です。今回の参考図書のように一見定性的な「説得」や「コミュニケーション」を論理的に論じてくれる書物を活用すれば社内でのパフォーマンス向上、転職、独立に非常に有利に働くと思います。

参考図書(再掲)

プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く