金融工学入門(ストックオプションとは何か)


ストックオプションの概念

ストックオプションとは、金銭報酬の代わりに、企業から役員や従業員に付与される、当該企業の「株を買う権利」であり、新株予約権の一形態である。
あらかじめ決められた値段で株を買うことが出来る権利であるから、ストックオプションは一種のコールオプションである(オプションとは何かについてはこちらの記事を参照)。

報酬としてのストックオプション

企業が業績を上げ株価が高まると、ストックオプションの保有者は株価と権利行使価格の差額を利益として得られる。
ここに価値が発生するため、ストックオプションは金銭的報酬の代替手段として用いられるのである。

ベンチャー企業などではストックオプションを用いた報酬設計を取り入れる会社も多い。
従業員にストックオプションを付与し、株価上昇のインセンティブを与えることで、労働のモチベーションを上げることが可能になる。
ストックオプションはオプションであるから、報酬として無償で付与される限り、付与された者が損をすることはない(有償で付与、つまりストックオプションを購入するというスキームもある)。

ストックオプションの会計処理(企業側の問題)

企業がストックオプションを報酬として付与した場合、報酬の対価として付与者から労働サービスを受領するわけであるから、企業会計上、給与と同様コストとして認識しなければならない。
その際、実際にいくらを費用認識しなければいけないのか、換言すれば、付与時点のストックオプションの価値はいくらなのかを、計算しなくてはならない。

ストックオプションの価値

ストックオプションの価値を計算する方法は、金融工学と呼ばれる分野で1970年以降発展してきた。
その方法にはいくつかあるが、「ストック・オプション等に関する会計基準」では、ブラック・ショールズ式や二項モデルが挙げられている。

ブラック・ショールズ式とは、権利行使日が決まっているタイプのオプションの価格を求める公式である。こちらの記事では、Pythonによるブラック・ショールズ式の計算方法が解説されている。これを用いれば、自分でストックオプションの価値を計算することも可能である。

ストックオプションを発行/付与されることになったら

ストックオプションの発行は、企業の利益に直接影響する要因であるため、公認会計士や税理士などの専門家の意見を取り入れるべきである。特に価値の評価に関しては、上述のブラック・ショールズ式を適用してはいけないケースも多々あり、この場合、より先進的な手法であるモンテカルロ・シミュレーションに基づく評価を実施しなければいけないため、金融工学に精通した専門家に相談することを検討してもらいたい(モンテカルロ・シミュレーションについてはこちらの記事を参照)。
また、ストックオプションを付与される側も、条件によって所得税法上の取り扱いが変わるなど、テクニカルな問題がある。この点についても、顧問税理士や会計事務所などの判断を仰ぎたい。

リファレンス

企業会計基準委員会, 2005, ストック・オプション等に関する会計基準
J. ハル, 2016, フィナンシャルエンジニアリング〔第9版〕 ―デリバティブ取引とリスク管理の総体系, きんざい