リースの表現定理から弱解の存在を示す
この記事では、有限要素法において本質的なLax-Milgramの定理の概説をおこないます。参考文献は、
Brezis、宮島です。
前提
完備性やヒルベルト空間、とくに$L^2$空間が何かは知っているものとします。
Introduction
まず、$\Omega$を$\mathbb{R}^N$の有界領域で境界は滑らかとします。境界の滑らかさは後に出てくる弱解が普通の意味での古典解になるための条件にも関わってくるのですが、本記事の範囲をはるかに超えるため解説は行いません。次の偏微分方程式を考えます。
$$
(P)
\begin{cases}
-\Delta u(x)+u(x)&=f(x) \ \ ,x\in \Omega \\
\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ u(x)&=0 \ \ \ \ \ \ , x\in\partial\Omega
\end{cases}
$$
$f$はある程度の滑らかさを持った関数とします。(普通の意味の解$u\in C^2(\Omega)\cap C(\bar{\Omega})$であれば、左辺で二階微分をしているので、右辺の$f$に対して連続性ぐらいないと等号が成り立ちません。)$-\Delta u(x)$のあとに$+u(x)$がついていて気持ち悪いかもしれません。しかしポアソン方程式はこの後の議論を使っても一般領域では解の存在も明らかではないので、付け足しています。
(P)の普通の意味での解(今後古典解とよびます)を考えたいのですが、解析的に解くことが著しく困難です。そこで現代数学では次のような変分法的手順を踏みます。
STEP1: まず、(P)の方程式の解が対応する汎関数の最小値を実現するものと捉え直す(Dirichletの原理)。最小値をとる関数が(P)の方程式の弱解(別途定義する)であることを示す。
STEP2:弱解が古典解であることを示す(正則性の議論)
STEP1はちょうど物理の考え方の逆であると考えると簡単かもしれません。
物理学では、まず最小化したい汎関数$I$があって、変分$\delta I=0$から微分方程式をときますが、数学では逆に微分方程式があって、それに対応する汎関数を考えそれの最小値をとる関数を考えます。
分かりやすい例で言えば、$x^2=1$の正値解を$F(x)=1/3 x^3-x$の最小値をとる点と考えるのか、$F(x)$の微分したら$0$になる点ととらえるかです。
STEP1を解説したいのですが、対応する汎関数を導出するために凸解析や関数空間の微分などについても議論する必要があるので、弱解が対応する汎関数の最小値をとる関数になっていることを示します。逆については宮島が詳しいです。
STEP2については解説しません。
弱微分について
弱解を定義するためには弱微分を定義する必要があります。すなわちソボレフ空間を導入する必要があります。ここでは、簡単のために内積が入っている場合のみ考え定義と気持ちだけ触れたいと思います。
任意の自然数$1\leq i \leq N$に対して、$v_i\in L^2(\Omega)$が$u\in L^2(\Omega)$の弱微分とは、任意の$\phi \in C_0^\infty(\Omega)$に対して、
$$\int_{\Omega} u\frac{\partial \phi}{\partial x_i} dx=-\int_\Omega v_i \phi dx$$
を満たすことをいいます。ここで、$C_0^\infty(\Omega)$とは簡単にいうと滑らかで境界上$0$の関数のことをいいます。弱微分できる関数は微分はできないが、部分積分はできる関数と考えることができます。1変数関数の$y=|x|$を考えると想像しやすいかもしれません。上の意味で弱微分できる関数空間全体を$H^1(\Omega)$と表すことにします。
$H^1$上の内積に
$$(u,v)_{H^1}:=\int uv dx+ \int\nabla u\cdot \nabla v dx $$
と定義すれば、$H^1$はヒルベルト空間になります。
弱解の定義
方程式(P)の弱解を定義します。
天下り的ですが、(P)の両辺に$v\in C_0^\infty$を掛けて、$\Omega$上積分します。
$$\int_\Omega -\Delta u(x)v(x)+u(x)v(x)dx=\int_\Omega f(x)v(x)dx$$
ガウスの発散公式をつかって、左辺第1項を部分積分します。積の微分$\nabla \cdot(v \nabla u)=\nabla v \cdot \nabla u + v \Delta u$に注意しましょう。
$$\int_\Omega-\Delta u v=\int_\Omega(-\nabla\cdot(v \nabla u)+\nabla v \cdot \nabla u=\int_{\partial \Omega}-v \nabla u\cdot n +\int_\Omega \nabla u \cdot \nabla v=\int_\Omega \nabla u \cdot \nabla v$$
ここで,最後の等式で$v$が境界で$0$であることを用いました。よって以下の積分方程式がえられます。
$$\int_\Omega \nabla u(x)\cdot \nabla v(x)+u(x)v(x)dx=\int_\Omega f(x)v(x)dx \ \ ,\forall v\in C_0^\infty$$
この解を考えたいのですが、解のクラスを$C_0^1,C_0^2$とすると、議論の見通しがよくありません。これは、$C_0^1,C_0^2$に積分の内積をいれるとヒルベルト空間にならないからです。ここでは、まず関数の滑らかさは諦めて、$H_0^1(\Omega)$の元で弱解を以下のように定義します。
$u\in H_0^1(\Omega)$が以下の方程式の弱解とは、任意の$v\in H_0^1(\Omega)$に対して、
$$\int_\Omega \nabla u(x)\cdot \nabla v(x)+u(x)v(x)dx=\int_\Omega f(x)v(x)dx \ \ $$
がなりたつことです。ここで、$H_0^1(\Omega)$も$H^1$の上に定めた内積の元で、ヒルベルト空間であることと、上の$\nabla$は弱微分の意味においてであることに注意します。
上の方程式を内積を使って簡単に書くと、
$$(u,v)_{H_0^1}=\int fvdx$$
になります。この方程式の解の一意存在性はリースの表現定理からすぐに示すことができます。
リースの表現定理
$H$をヒルベルト空間とします。ここで、$H'$を$H$の双対空間、すなわち有界線形汎関数全体とします。任意の$\phi \in H'$に対して、一意に$u\in H$が定まり、以下の式をみたします。
$$\phi(v)=(u,v), v \in H$$
さらに強い主張が言えるのですが、ここでは省略します。簡単に定理を説明すると、$H$上の有界線型汎函数を1つ適当に固定するとそれは内積で表示できるということです。これをつかって、弱解の一意存在を述べましょう。
弱解の一意存在
考えたい方程式は以下でした。
$$(u,v)_{H_0^1}=\int fvdx , \forall v $$
まず右辺について見ていきます。これまで,$f$についてのクラスは何も言及していませんでしたが、$f \in L^2(\Omega)$としておきます。
$$H^1_0 \ni v \mapsto \int f vdx $$
という汎関数を考えるとこれは$H_0^1$上の有界線形汎関数であることがわかります。線形性はあきらかなので、有界性だけ示します。積分に関するコーシーシュワルツの不等式から、
$$
\begin{align}
|\int_\Omega fv dx |&\leq\Big(\int f^2 dx\Big)^{1/2} \Big(\int v^2 dx\Big)^{1/2} \\
&\leq ||f||_{L^2(\Omega)} \| v \|
\end{align}
$$
より$H^1_0$の意味で有界性がいえました。よってリースの表現定理から弱解$u$が一意存在することがわかりました。ここで、$\|v\|$は$H^1$の内積によって誘導されるノルム、すなわち$(v,v)^{1/2}$です。
次回
リースの表現定理から特定の線形偏微分方程式の弱解が一意存在することがいえました。次回は一般的な形の楕円型方程式に対する弱解の一意存在を示すLax-Milgramの定理についての解説記事をかきます(この記事がある程度読まれれば)。Lax-Milgramの定理を使えば、解の弱解の一意存在を与えるだけでなく、弱解が対応する変分問題の最小値を与えることもわかります。
Author And Source
この問題について(リースの表現定理から弱解の存在を示す), 我々は、より多くの情報をここで見つけました https://qiita.com/jamojisan/items/e2e42cf0533c9784e9e2著者帰属:元の著者の情報は、元のURLに含まれています。著作権は原作者に属する。
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