数検1級 (9) 実解析


問題

実数全体を定義域とする関数

f(x) = \begin{cases}
\frac{\sin x}{x} && (x\not=0) \\
1 && (x=0)
\end{cases}

について、次の問いに答えなさい。

(1)$f(x)$ はすべての実数 $x$ において微分可能であり、 $f(x)$ の導関数 $f'(x)$ は連続であることを証明しなさい。

(2)(1)での $f'(x)$ において、$a_n=f'(n\pi)$ ($n$ は正の整数)で定めるとき、級数 $\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ の和を求めなさい。

知識

ロピタルの定理

$\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)}$ が不定形で、
$\lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)}$ が存在するなら、

\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)}
  • ここで不定形とは、分母子の極限をそれぞれ求めた結果が $\frac{0}{0}$, $\frac{\pm\infty}{\pm\infty}$ になることを指す
  • $a$ は 無限大でも良い
  • 片側極限にも適用できる

関数の連続性

次が成り立つとき、関数 $f$ は $x=t$ において連続。

\lim_{x\to t}\,f(x) = f(t)

解答

(1)

$x\not=0$ においては、商の微分を適用して

f'(x) = \frac{x\cos x -\sin x}{x^2}

$x=0$ のおいては、導関数の定義から

\begin{align}
f'(0) 
&= \lim_{h\to 0} \frac{f(h) - f(0)}{h} \\
&= \lim_{h\to 0} \frac{\frac{\sin h}{h} - 1}{h} \\
&= \lim_{h\to 0} \frac{\sin h - h}{h^2} \\
&= \lim_{h\to 0} \frac{\cos h}{2h} &&\text{(ロピタルの定理)} \\
&= \lim_{h\to 0} \frac{-\sin h}{2} &&\text{(ロピタルの定理)} \\
&= 0
\end{align}

したがって、

f'(x) = \begin{cases}
\frac{x\cos x -\sin x}{x^2} && (x\not=0) \\
0 && (x=0)
\end{cases}

$x\not=0$ における $f'$ の連続性は明らか。
$x=0$ においては、次の極限を考える。

\begin{align}
\lim_{x\to 0}\frac{x\cos x -\sin x}{x^2} 
&= \lim_{x\to 0}\frac{\cos x -x\sin x -\cos x}{2x}  &&\text{(ロピタルの定理)} \\
&= \lim_{x\to 0} \frac{-x\sin x}{2x}   \\
&= \lim_{x\to 0} \frac{-\sin x}{2}   \\
&= 0 \\
&= f'(0).
\end{align}

したがって、$f'$ は $x=0$ においても連続である。

(2)

\begin{align}
a_n &= f'(n\pi) \\
&= \frac{n\pi\cos (n\pi) -\sin (n\pi)}{(n\pi)^2} \\
&= \frac{n\pi\cos (n\pi)}{(n\pi)^2} && \text{($\sin \pi, \sin 2\pi, \dots = 0$)} \\
&= \frac{\cos (n\pi)}{n\pi}  
\end{align}

したがって

\sum_{n=1}^{\infty} a_n 
= \frac{1}{\pi} \left( -1 + \frac{1}{2}  - \frac{1}{3} + \frac{1}{4} - \cdots  \right)

ここで、$g(x) = \log(x)$ の $x=1$ におけるテイラー展開を考える。
$g'(x) = x^{-1}, g''(x) = -x^{-2}, g'''(x) = 2x^{-3}, g^{(4)} = -3\cdot 2x^{-4}, \dots$ だから、

\begin{align}
\log(x) &= 0 + (x-1) - \frac{1}{2!} (x-1)^2 + \frac{2}{3!}(x-1)^3 - \frac{3\cdot 2}{4!}(x-1)^4 + \cdots \\
&= (x-1) - \frac{1}{2} (x-1)^2 + \frac{1}{3}(x-1)^3 - \frac{1}{4}(x-1)^4 + \cdots
\end{align}

$x=2$ を代入すると

$$
\log(2) = 1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots
$$

したがって、求める級数は、

\begin{align}
\sum_{n=1}^{\infty} a_n 
&= \frac{1}{\pi} \left( -1 + \frac{1}{2}  - \frac{1}{3} + \frac{1}{4} - \cdots  \right) \\
&= \frac{-\log(2)}{\pi}.
\end{align}

感想

  • ロピタルの定理が使えると、極限計算が閃きに依存しなくなって嬉しい。
  • この無限級数は、ひと目テイラー展開だったらいいなと思ったが、$\log x$ を思いつくかどうか。テイラー展開の分母にある階乗を約分するために、導関数が階乗になってほしい。そんな関数あったかなと思ったら、べき乗がまさにそれだった。
  • ゼロ以外の点でテイラー展開する問題は初めてだった。