「ならば」と 数学
0. 概要
数学では「ならば」に相当するような 記号や表記や概念 がたくさん出てくるので整理してみた。数理論理学に関連。
1. 「ならば」っぽい奴の一覧
-
→
, ⊃
- 論理学の「ならば」。真理値表を書けばその機能は明確。
A→B
のように使われA
がtrueかつB
がfalseの時にのみfalseとなる。定義が明確なので使用上の混乱はないが、「なぜその真理値表を持つのか?」というそもそもの疑問を持つ人もいる(→
をならばと読んでいるからこその疑問)
-
定理における ⇒, $\Longrightarrow$, ならば
- 定理の中に出てくる日本語「ならば」。⇒や $\Longrightarrow$ とも。
- 例「xが4の倍数 ならば xは2の倍数 である」
- 「
A
ならばB
」という形で文の間に配置されて、新しい言明を生成する。A
が成立していないときのことについては何も主張しないので その時の B
の成否は問わない。
- メタな文(論理式で表せない文)とメタな文の間に配置して、新しい言明を生成することもある
- 人によっては頭の中で自動的に
A→B
に翻訳しているかもしれない(がそれは先走りすぎかも。後述。)
-
ならば(日常)
- 日本語などの自然言語での「ならば」。「雨が降るならば遠足は中止です」に見られるように、雨が降らない場合も暗示することもある(つまり、雨が降らなかった時には遠足は行うといったように。この場合、ならばというよりも同値となる)。数学のテクストも日本語で記載されるので、自然言語での説明や解説において影響がありうる。
-
⊢, 「・・を仮定するならば・・が証明できる/導出できる」
- 「
A
とB
を仮定するならばC
が導出できる」のように使われる。論理学では ⊢ という記号を用い、{A
,B
} ⊢ C
と書く。
- 公理と定理の関係もこのカテゴリに入る。
- 上述の「⇒」と似ているがこちらの方が意味が限定されている。「⇒」の証明ヴァージョンが「 ⊢ 」だと理解してもよい。
-
推論・演繹としての ならば/よって/ゆえに/ということは
- 背理法: 「
A
と仮定すると矛盾。ならばA
でない」
- 場合分け: 「
A
と仮定するとB
。¬A
と仮定してもB
。よってB
」
- 三段論法: 「
A
とA→B
が示せた。よってB
」
- 二重否定除去:「
¬¬A
だ。ならば A
。」
- ・・・
- これらは、推論規則と呼ばれる。いくつかの基本的な推論規則をベースに、それらを組み合わせた派生規則が無数に生み出される。
-
モデル版 ⊨ 「・・・という構造を決める ならば成立する/正しい」
- 「3つの元からなる集合を考える ならば 互いに異なる二つの元が存在する」のように使う。公理を与えるのではなく、対象や演算の性質を具体的に定めることにより、文の成立不成立を議論する。意味論・モデル論的なアプローチ。
- 数理論理学では ⊨ を使い、左辺に構造を配置する M ⊨
∃x∃y¬(x=y)
-
帰結版 ⊨ 「・・・が成立するならば・・・が帰結する」
- 「
A
が成立する ならば B
が成立するのように使う。前述の⇒と似ているが意味が限定されており、背後に特定の構造(およびそれによって定まる理論)を背景にある。しかし、我々が(通常の用途で) 「⇒」 や 「ならば」を利用するときには、特定の構造を前提とするのが普通なので、⇒ と同一視してもいいのかもしれない。A
⊨ B
のように使う
2. ならばに関するトピック
2-1. 演繹定理
→
, ⊃
- 論理学の「ならば」。真理値表を書けばその機能は明確。
A→B
のように使われA
がtrueかつB
がfalseの時にのみfalseとなる。定義が明確なので使用上の混乱はないが、「なぜその真理値表を持つのか?」というそもそもの疑問を持つ人もいる(→
をならばと読んでいるからこその疑問)
定理における ⇒, $\Longrightarrow$, ならば
- 定理の中に出てくる日本語「ならば」。⇒や $\Longrightarrow$ とも。
- 例「xが4の倍数 ならば xは2の倍数 である」
- 「
A
ならばB
」という形で文の間に配置されて、新しい言明を生成する。A
が成立していないときのことについては何も主張しないので その時のB
の成否は問わない。 - メタな文(論理式で表せない文)とメタな文の間に配置して、新しい言明を生成することもある
- 人によっては頭の中で自動的に
A→B
に翻訳しているかもしれない(がそれは先走りすぎかも。後述。)
ならば(日常)
- 日本語などの自然言語での「ならば」。「雨が降るならば遠足は中止です」に見られるように、雨が降らない場合も暗示することもある(つまり、雨が降らなかった時には遠足は行うといったように。この場合、ならばというよりも同値となる)。数学のテクストも日本語で記載されるので、自然言語での説明や解説において影響がありうる。
⊢, 「・・を仮定するならば・・が証明できる/導出できる」
- 「
A
とB
を仮定するならばC
が導出できる」のように使われる。論理学では ⊢ という記号を用い、{A
,B
} ⊢C
と書く。 - 公理と定理の関係もこのカテゴリに入る。
- 上述の「⇒」と似ているがこちらの方が意味が限定されている。「⇒」の証明ヴァージョンが「 ⊢ 」だと理解してもよい。
推論・演繹としての ならば/よって/ゆえに/ということは
- 背理法: 「
A
と仮定すると矛盾。ならばA
でない」 - 場合分け: 「
A
と仮定するとB
。¬A
と仮定してもB
。よってB
」 - 三段論法: 「
A
とA→B
が示せた。よってB
」 - 二重否定除去:「
¬¬A
だ。ならばA
。」 - ・・・
- これらは、推論規則と呼ばれる。いくつかの基本的な推論規則をベースに、それらを組み合わせた派生規則が無数に生み出される。
モデル版 ⊨ 「・・・という構造を決める ならば成立する/正しい」
- 「3つの元からなる集合を考える ならば 互いに異なる二つの元が存在する」のように使う。公理を与えるのではなく、対象や演算の性質を具体的に定めることにより、文の成立不成立を議論する。意味論・モデル論的なアプローチ。
- 数理論理学では ⊨ を使い、左辺に構造を配置する M ⊨
∃x∃y¬(x=y)
帰結版 ⊨ 「・・・が成立するならば・・・が帰結する」
- 「
A
が成立する ならばB
が成立するのように使う。前述の⇒と似ているが意味が限定されており、背後に特定の構造(およびそれによって定まる理論)を背景にある。しかし、我々が(通常の用途で) 「⇒」 や 「ならば」を利用するときには、特定の構造を前提とするのが普通なので、⇒ と同一視してもいいのかもしれない。A
⊨B
のように使う
2-1. 演繹定理
「A
⊢B
(つまり A
を仮定するならばB
が証明できる)」を「A → B
が証明できる」と同一視してよいことを保証するのが演繹定理。演繹定理が成立しない場合もあるけれど、普通の数学では成立する。概念的に異なる →
と ⊢ を(ある意味で)同一視しても、変なことにはならないことを主張。
「定理における日本語の ならば、つまり $\Longrightarrow$ 」 を「 ⊢ 」として解釈できる場合「A
$\Longrightarrow$B
」という言明は、演繹定理により「A→B
」が定理であると解釈することができることを示している。
-
A
$\Longrightarrow$B
: 日本語(自然言語)を使った言明 -
A
⊢B
: 数理論理学を使ったメタレベルの言明 -
A → B
: 数理論理学を使ったオブジェクトレベルの言明
2-2. 完全性定理
「T
⊢ A
(Tを公理としてAが証明できる)」を「T
⊨ A
(Tが成立するときには Aが成立する)」と同一視してよいことを保証するのが完全性定理。完全性定理が成立しない場合もあるけれど、普通の数学では成立するので、概念的に異なる ⊨ と ⊢ を同一視しても、変なことにはならない。(注:ゲーデルの不完全性定理とはまた別の話)
以上2-1.2-2 より、以下は通常同一視して構わない:
-
A
を仮定するならばB
が証明できる -
A
が成立するならばB
が成立する -
A→B
が証明できる -
A→B
が成立する
2-3. 対偶証明
対偶証明と呼ばれる論法は、前述の演繹定理を使って正当化できる。つまり、「A
ならばB
が成立する」は「A→B
が成立する」と言い換えてよい。あとは真理値表を使うと、「¬B→¬A
が成立する」と言い換えてよく、これに再度演繹定理を使えば「¬B
ならば¬A
が成立する」と同一視できる。
2-4. 可証性述語
既にみたように、「A
ならばB
」というメタな文は A→B
というオブジェクトレベルの文に変換できる。では同様に「T
を仮定するならばA
は証明可能」というメタな文での ならば=「 ⊢ 」はオブジェクトレベルに落とし込めるのだろうか?
答えはできる場合とできない場合がある。ペアノ算術や集合論では可能。可証性述語Pr
とよばれ。不完全性定理への第一歩。
可証性述語を使うと、演繹定理を形式化できる(論理式として書ける)。つまり、形式化された演繹定理は PrA("B") ↔ Pr("A→B")
ここで PrA
は 議論の土台となっている理論にA
を定理として組み込んだ理論における可証性述語であり、 クォーテーション"
で囲まれた表現は、クォートされた論理式のゲーデル数を表す数である。
3. 参考文献とまとめ
菊池『不完全性定理』の2章と9章において、→
の真理値表が納得がいきにくい理由を論じていたり、→
を定理に ⊢ を証明を対応付けて考察しており、大いに刺激を受けた。また標準的な論理学の教科書でも、ここに記載されていることがある程度考察されている。例えば野矢『論理学』。
コメントや議論はウェルカムです。
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この問題について(「ならば」と 数学), 我々は、より多くの情報をここで見つけました https://qiita.com/41semicolon/items/7fcd50a1b569aa07156f著者帰属:元の著者の情報は、元のURLに含まれています。著作権は原作者に属する。
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