X, Yが0を中心に対称な分布に従うなら、X+Yもそうか?


Introduction : 対称な分布

確率分布が確率質量関数または確率密度関数によって定義されているものとし、これを$f(x)$と書くことにします。このとき、$f(x)$が$x_0$で対称、要するに任意の実数$c$に対して$f(x_0+c)=f(x_0-c)$をみたすような確率分布を「$x_0$で対称な分布」といいます。

1. 問題

この記事では次のような問題を考えます。

問題 : 確率変数$X,Y$が従う確率分布が0を中心に対称ならば、$X+Y$もまた同様であるか?

この問題は、$X,Y$が独立であれば正しいことを難しくなく示すことが出来ます。

命題 : 上の問題は、$X,Y$が独立であれば正しい。

証明 : 連続型の場合のみで示します。(離散型の場合も証明は同様です。)畳み込みを用いましょう。$Z:=X+Y$, $f_{X}(x), f_{Y}(y), f_{Z}(z)$はそれぞれの確率密度関数とします。以下の等式が成り立ちます。

\begin{eqnarray*}
f_{Z}(z) &=& \int_{-\infty}^{\infty}f_{X}(x)f_{Y}(z-x)dx\\
&=& \int_{-\infty}^{\infty}f_{X}(-x)f_{Y}(-z+x)dx\\
&=& \int_{-\infty}^{\infty}f_{X}(x')f_{Y}(-z-x')dx'\\
&=& f_{Z}(-z)
\end{eqnarray*}

なお、2段目では$f_{X}(x),f_{Y}(y)$が0を中心に対称(要するに偶関数)であることを用い、3段目では$x'=-x$とおいて置換積分しました。■

本題は$X,Y$が独立ではない場合です。

2. 解答

結論から言うと、正しくありません。以下のような反例を構成できます。

反例 : 次のような同時確率質量関数を考えればよい。

X\Y -1 0 1
-1 0 1/3 0
0 1/3 0 0
1 0 0 1/3

$X$, $Y$の確率分布は$x,y=-1,0,1$上の離散一様分布になり、0を中心に対称です。しかし、$Z=X+Y$の分布は$\mathbb{P}[Z=-1]=2/3$, $\mathbb{P}[Z=2]=1/3$となり0を中心に対称にはなりません。

3. 考察

上の例で用いた$x,y=-1,0,1$の場合の$(X,Y)$の同時分布の場合で、

  • $X,Y$が0を中心に対称な分布
  • さらに$X+Y$が0を中心に対称な分布

を求め、パラメータ空間の次元を比較しましょう。$X,Y$が0を中心に対称な分布を持つ場合、$(X,Y)$の同時分布は6つのパラメータ$t_1,\cdots,t_6$を用いて以下のように書き下すことが出来ます。

X\Y -1 0 1
-1 $t_1$ $t_2$ $t_3$
0 $1-(t_4+t_5)-2(t_1+t_2+t_3)$ $t_4$ $t_5$
1 $-1+(t_1+t_4+t_6)+2(t_2+t_5)+3t_3$ $1-(t_2+t_4)-2(t_3+t_5+t_6)$ $t_6$

さらに$X+Y$が0を中心に対称な分布の場合、$t_1=t_6$が成り立ち、以下のように書き下すことができます。

X\Y -1 0 1
-1 $t_1$ $t_2$ $t_3$
0 $1-(t_4+t_5)-2(t_1+t_2+t_3)$ $t_4$ $t_5$
1 $-1+t_4+2(t_1+t_2+t_5)+3t_3$ $1-(t_2+t_4)-2(t_1+t_3+t_5)$ $t_1$

要するに、$(X,Y)$の同時分布のパラメータ空間8次元のうち、$X,Y$が0を中心に対称な分布になる場合が6次元、さらに$X+Y$が0を中心に対称な分布になる場合は5次元あることが分かりました。

Acknowledgement

前記事でのみなさまの温かい応援がありがたいです。心から感謝しております!