1台単価5,000円以内で,実験用ロボットカーを作る


はじめに

大学の学生実験でマイコンを搭載したロボットカーを作って,制御やセンサーの実験をして,最終的にロボットサッカーを作成するというのをやろうと思ったんですが,専用のキットを購入すると数万円するものが多く一人一台使わせるには予算が足りない.またキットだとディスコンになってしまうと代替えが難しいということで,汎用部品でなんとかやってみたので,忘備録がわりに紹介します.

予算は1台あたり5,000円まで,これでも学生実験で一人一台使うには高いですが,次年度に使いまわせる部品もあるので,初年度だけ他の授業やイベントと共有しながらなんとか予算を捻出して次年度からは壊れた部品や使いまわせない部品だけ追加購入するということでこの価格にしました.ただし部品によっては100台単位で購入した場合の1台の単価になっているので,この通り1台分だけ揃えても5,000円には納まりませんのであしからず.

必要な部品概要

実験に必要なのは,まず当然ながらマイコン,次にシャーシ,モーター,タイヤなどのベース車体,モーターを駆動するモータードライバ,フィードバック制御をするためのエンコーダ,各種センサなどとなります.順番に入手先や2019年9月現在の価格と共に紹介します.

マイコン

一昔前だとホビーや大学の学生実験では,PICやAVRなどがよく使われていましたが,使い勝手もあまり良くないし,性能不足は否めません.最近ではArduinoやMicro:bitがよく使われているようですが,IOの数が足りそうにありません.そこで価格も安くmbed互換で使いやすく,IOのピン数も十分あるNucleo64のシリーズにしました.その中から価格と性能のバランスを考えて Nucleo-F411REを選びました.

16チャンネルのADC, 3系統のI2CやUSB2.0 full-speed OTGなどが使えます.

RSコンポーネンツで10台以上購入すると1723円.

マイコンは壊れなければ次年度にも使いまわせるので,ある程度コストをかけてもいいかもしれません.Nucleoはレイアウトごとにピン配置が互換なので,同じレイアウトならマイコンを変えることもできます.

ベース車体(シャーシ,モーター,タイヤ,電池ボックス)

シャーシそのものは自分で設計してアクリルなどをカットして作成するという手もありますが,難しいのがモーター(含むギアボックス)で,手ごろな価格で,エンコーダを取り付けられてとなるとなかなかないです.最初に考えたのはタミヤのツインギアボックスで,実際にこれを利用したこともあったんですが,エンコーダを取り付けるのが難しいということでボツになりました.

他に色々探していると,マルツでシャーシ,モーター&タイヤx2,電池ボックス,前輪用キャスターが揃っているキットがあって,これだけ揃って1000円を切る値段.シャーシも色々取り付け用の穴がついていて使いやすそう.

アマゾンなどで探せば同じようなのがもっと安く売っているのですが,微妙に穴の位置が違っていたりしてお勧めできません.

モーターは,海外でよく使われている yellow gear motorで,車軸が両方に出ているので,タイヤをつけていない方にエンコーダを取り付けることができます.
ちなみに,マルツのキットには,エンコーダー用のディスクもついていて使えそうと思ったんですが,後述するようにこのディスクでは使い物になりませんでした.

また,万が一キットがディスコンになっても,モータ自体は他でもあちこちで売っているので,シャーシだけどうにかすれば大丈夫そうというのものポイントです.

マルツで100台購入すれば,一台あたり932円.

実験の後半で,自由に工夫してセンサなどを追加して行くので,シャーシは次年度に持ち越せない場合が多いです.その他のモーターなどは持ち越せるので,何年かしたらシャーシだけ図面に起こして,別途作成したほうが良さそうです.

モータードライバ

これも色々あるんですが,モーター2台で1Aくらいは使うので,フルブリッジx2で1A以上で,安くて入手性の良さそうなものということで,新日本無線の NJM2670D2にしました.

RSコンポーネンツで100台以上購入すると309円.

基板にはICソケットを半田付けしておけば,ドライバそのものは次年度にも持ち越せます.ただ,今年このドライバがディスコンになって,流通在庫のみになっているので(大量にありそうなのでしばらく大丈夫ですが),そのうち変更する必要があります.

エンコーダ

ここが一番苦労しているところで,最初は車軸につけるエンコーダディスクを自作したり,マルツの車体キットについているエンコーダディスクを利用したりして,フォトインタラプタを使った光学式でやっていたんですが,一回転50から60パルスくらいが限界で,これくらいの分解能では,速度制御などをしようと思うと難しいです.かと言ってこれ以上のスリットの細かいエンコーダディスクは値段も高いし,学生が実験で取り付ける精度ではまともに動く気がしません.

色々探しているとこちらのページを発見しました.ここで使われているエンコーダチップはASMのAS5600と言って,ホール素子をつかった磁気式で一回転4096段階の回転角度を取得できるというものです.ただ問題はあってチップ単体では安いんですが表面実装で学生実験で扱うには半田づけが困難です.ブレイクアウトボードにすると2000円くらいしてしまいます.また,モーターに取り付けた磁石との位置合わせも考える必要があります.

そこで,モータの車軸にチップの位置がぴったり合うような基板を設計し,基板制作と表面実装部品のみ実装サービスを頼むことにしました.pcbgogoで200枚基板制作+部品実装を頼むと,AS5600込みで71390円でできたので,一枚あたり357円,1台につき2枚必要なので,714円でできました.

国内のサービスでは部品実装までやると高いのでpcbgogoにしましたが,公費が使えないので,立替払いにする必要があるのだけが難点.
表面実装部品以外は実験で学生に半田付けをさせます.次年度にも持ち越せます.

メイン基板,モーター用基板

メインのマイコンの電源やモータードライバ ,モータとの接続のためのメイン基板と,モーターにノイズフィルタをつけてコネクタで接続する基板を設計し,ユニクラフトに発注して制作しました.

メイン基板が100枚製造して,1枚あたり273円,モーター基板が200枚製造して2枚で326円でした.

メイン基板への部品の半田付けは実験の一環として学生にやらせるので,持ち越せないですが,基板自体が壊れることは少ないので,デモや公開実験講座などの外部イベントへの使い回しができます.

センサ,オペアンプ

最終目的がロボットサッカーなので,RobocupJuniorの赤外線発光ボールを検出するための赤外線レシーバを,方向を知るために1台につき3台使い,それにフィルタや増幅のためのクアッドオペアンプを使用します.

赤外線レシーバがVishayのTSSP4038で55円(270個購入時)で1台3個使うとして165円,オペアンプが[MicrochipのMCP6004-I/P]で36円,いずれもRSコンポーネンツ.

赤外線レシーバはユニバーサル基板などに組み込むと次年度に持ち越せないですが,オペアンプはICソケットを使えば持ち越せます.

まとめ

ここまの部品リストと1台あたりの金額をまとめてみます.金額はいずれも税込み価格です.

品名 型番 購入先 単価 必要数 金額
マイコン Nucleo-F411RE RS 1723円 1 1723円
ベース車体 2WD-B マルツ 932円 1 932円
モータードライバ NJM2670D2 RS 309円 1 309円
エンコーダ AS5600使用独自基板 pcbgogo 357円 2 714円
メイン基板 独自設計 ユニクラフト 273円 1 273円
モーター用基板 独自設計 ユニクラフ 163円 2 326円
IRレシーバ TSSP4038 RS 55円 3 165円
オペアンプ MCP6004-I/P RS 36円 1 36円
合計 4478円

ここまでで1台あたり4478円になりました.他にもコネクタやソケット,配線ケーブルなどが必要ですがある程度の数を購入すれば一台あたり数10円程度なので,だいたい4500円くらいに納まり,目標の5,000円まで500円を残しています.

このセットで,エンコーダを使ったフィードバック制御実験や,IRレシーバを使って赤外線発光ボールを検出し,ボールをける実験などができます.

あとこれにフォトリフレクタ(数十円)を追加すればライントレーサーができますし,距離センサ(秋月で500円くらい)を追加すれば,衝突回避や迷路などができます.ロボットサッカーだと,カラーセンサや方位センサを追加していけばいいでしょうか?

自作した基板やプログラムなどに関しては,また気が向いたら,あるいは要望があればおいおい上げていきます.